2021年04月22日【純愛モノ】鳥/車/憂鬱な可能性(966字を/22分で)


 大学の卒業が間近に迫り、いよいよ今後への不安と向き合う時が来た。これまでは共通して学校だったので、自らの知識を増やすことだけを考えていた。アルファは他を知らずにいた。企業とは具体的に何をするのか。自分はこれからやっていけるか。材料がないので考えられず、考えられないので答えが出ない。憂うだけで時間を使ってしまう。


 帰りがけに、交際中のブラボーが呼び止めた。このごろ悩みごとの様子を察知し、声をかけるべきか迷っていたそうだ。観察するうちに、考えてわかる内容ではないと判断して、今日はこうして声をかけた。まずはその行動に対し「ありがとう」と伝える。互いに安心して話を続けられる。


 ブラボーは車で大学に通っている。近くの駐車場を契約していて、まずはそこまで歩く。今日は時間帯がずれたからか、珍しく車が多く走っている。会話を後回しにして、エスコートをしてもらった。


「悩むのは、満腹になってからがいいよ」とはブラボーの持論だ。空腹だと小さな問題でも大きくなり、大きな問題はさらに大きくなる。だからまずは食事をする。これまでも何度か聞いていたが、一人では食べ切れるかどうか不安な量を用意しにくいので、実質的にブラボーと共に行動するのが悩みの解決になっていた。


 夕食どきにはまだ少し早い。空いてるうちに食事を済ませてしまおう。そう言って鳥料理の専門店へ向かった。タンパク質が多くて脂質が少ない、極めて健康的な食材だ。タンパク質はお肌を作るために必要な栄養だ。すべすべでもちもちなお肌の材料を摂取している。


 骨つきの肉で、どこまで食べられるか、食べやすい順番はと探しながら食べていく。最初の一個は向きを間違えて、肉を持って骨を齧ってしまった。見た目には全体がこんがり色づいている。そういうのもあるのか。


 苦戦しながらも食べるうちに、少しずつコツを掴んできた。骨だけにね。五個目はペロリと平げてしまう。皿に置かれているときには食べられるかどうか不安がある山だったが、食べてみればどんどん入っていく。口の中で細かく砕き、胃に送ったらさらに胃液で溶かす。最も小さくなるように空間を埋めて詰め込んでいる。


 二人とも満腹になり、いよいよ悩みの話を始める。


「悩み、なくなっちゃった。お腹がいっぱいだからかな。他の理由もありそうだけど」


 アルファが理由を言葉にまとめるのは、まだまだ先の話になる。



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