2021年04月15日【SF】冬/犬/おかしな関係(659字を/40分で)
朝は布団から出たくないし、昼は家から出たくない。暖房があっても冬の寒さは堪える。試練の先に得るものがあれば乗り越える気力も出るのだろうが、今のAにそんなものはない。ただ、義務感だけで体を起こす。大急ぎで服を着替えて、スリッパを履く。まずは床から奪われる体温を守る。残りの服も着たらて、すぐにコートも着てしまう。朝食より先に、勢いで外へ出て寒さに馴染ませる。毎朝この手である程度は体感を和らげている。
それと同時に、犬の散歩をする。Aが産まれたのと近い時期に引き取った子犬が、今で大きなは老犬だ。犬の一生は人間よりも短い。人間よりも一日の価値が高い。人間にとってはなんでもない期間でも犬なら運動不足になる。なので、毎朝の散歩は欠かせない。Aが小さい頃からずっとそう教わってきた。
そうはわかっていても冬の寒さに当てられると、本能的に早く帰りたくなってしまう。何か体温を上げる方法か、寒さから意識を逸らす先がほしい。
「おはよう、Aさん」
「おはようございます」
同じことを考える人もいる。近所に住んでいて、お互い犬を連れている。それ以外の共通項が何一つない相手と、散歩をするときだけ会話をするようになった。初めて会ったのは夏で、暑さから意識を逸らしていた。秋もせっかくだからと共に歩いていた。犬たちも仲が良さそうだからと理由をつけて共に歩いた。
この冬の厳しい寒さも散歩をしている間にどこかへ行く。おかげで助かります、と言い合って、今日も散歩を続ける。もう少しコースを長くしたいな、と呟き、同感だと返す。それだけの関係だ。
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