まいにち三題噺season1

2021年04月14日【指定なし】海/カブトムシ/ゆがんだ関係(883字を/44分で)

　Aは夏が来るたびに、Bを連れて旅行へ行く。中学校で出会ってから二度、高校でも二度、進路を違えてもずっと、毎年続けている。旅先では姉妹に思われることも、恋人同士に思われることもあった。各地の名産品を食べたり、絶景を二人きりで眺めたり、調子が急に悪くなってもただ身を寄せ合うだけでもある。

　Bは車椅子を使っている。中学生の頃、組体操の犠牲となったのだ。一番の大怪我を負ったが故に、反撃リスクの低さから失態の責任をなすりつけられていた。

　そこに手を差し伸べたのがAだ。車椅子を積極的に押してくれるし、旅行に連れて行ってもくれる'。恋人の話がないと噂を聞いて、自分のせいで時間がなくなっていると思ったこともある。確認と謝罪をするつもりで顔をあわせたら、Aの穏やかな微笑を見たら言い出せなくなった。Bは淡い恋心を抱いてしまった。きっと、両想いの。

　実は小学生の頃に一度、会ったことがある。そのときは男子が多めのグループが、木に群がる後ろをBが通りかかった。何があるんだろうと見つめていたところにAが振り返った。その手にはカブトムシと持っていた。

　小学校が違ったので会わないまま、中学校で再開してからも気づかずにいた。Bが思い出したきっかけは、高校二年の夏だ。泳げなくても楽しめそうなイベントを見つけたと言って、海に行った。夏らしいことをして、その関連でカブトムシの話を聞き、ようやく思い出した。Aの声が寂しげになり、つられてBも喉の奥が縮む。

　それ以来、夏は夏らしいことをしている。成人してからはお酒も交えるようになった。コンビニでも買えるほど普及していても、使い方を誤れば牙を剥く。ドラッグの中でも危険性と依存性が高く、いくつかの違法ドラッグさえも凌ぐ。

。お互い大人になってからは、、二泊三日や三泊四日も増えた。大人の遊びもある。二人で使うには広めの部屋も多く、全身を使ってもベッドが優しく受け止めてくれる。自宅だったら落ちてしまいそうな動きもホテルでなら受け止めてくれる。

　Bがトイレやシャワーを済ませる間に、Aは酒を用意しておく。ポシェットから小さな個包装を取り出した。