2021年04月12日【ホラー】台風/機械/見えない剣(1532字を/45分で)
「今からデスゲームを始めます。最後の一人になるまで殺し合ってください」
教室のテレビに、仮面をつけた人間が機械音声でアナウンスをした。
中学生が修学旅行で使うバスの一台を、伝えていた目的地ではなく、どこかの無人島へ移動させる。同じ手口での行為は十数年前から続いていて、ここ数年は鳴りを潜めていた。今の中学生にとっては、熱心に調べてもぎりぎり小学生になった頃が最後だ。
初めは不都合な行動を咎める首輪を使っていたが、やがて知名度が上がるにつれて説明が減っていった。やがて、首輪を使わずとも受け入れて参加する者も増えていった。
そんな情報を共有していないのがここにいる中学生たちだ。
「一人で始めてろよ。俺は友達殺しはしない」
「あいつ、自分でデスゲームなんて言い出すやつだぞ。子供騙しで乗せられると思ってる」
「見た感じ、どっかの学校でしょ。帰るよ」
Z中学校の三年一組は自称ゲームマスターの意に反して冷めた態度だ。首輪をつけていたら従わないものを爆殺していたが、今回はその手を使えない。慌てた様子を隠して、計画とは違うアナウンスに戻る。
「おいお前ら! そんなノリの悪さじゃあ、社会でやっていけないぞ!」
精一杯の、それでも浅い言葉で従わせようとする。もちろん生徒たちには響かない。
「やっていけるよ馬鹿が。気が変わった。こいつをぶん殴りに行こうぜ!」
「賛成だ。社会ってのは俺たちが作るからな」
「だったら積まれたバッグ、これに武器でも入ってるんじゃない?」
名案を受けて、デイパックの山からひとつを手にした。万が一に備えて、開けるのはまずひとつだけだ。中身はペットボトルの水が二日分と、パンが五個。真っ先に食糧が出てきた。その奥に説明書きと武器がはいっている。
「馬鹿には見えない剣?」
開けたAには、その説明を読む前から刀身がはっきり見えている。分厚い刀身がまっすぐに伸びる、西洋風の剣だ。
「いい剣じゃん」
「この説明だとなあ」
「なんて書いてある?」
Aは説明を読み上げるのではなく、剣を掲げた。
「どうだ? これ」
返事はほとんど決まっている。かっこいいぞ。強そうだ。その声に混ざって、数人は困惑顔だ。Aは困惑顔のクラスメイトを集めて問いただした。
「これ、見えないか?」
「見えないよ。馬鹿には見えない服とか?」
「そうらしいが、俺もこいつらも見えてるみたいなんだよな。それにB、お前が馬鹿に含むとは思いにくい」
Bはクラスでも頭がいい方で有名だ。他の見えないものは馬鹿ばかりだが、Bに見えないならば、それだけではないと教えている。
「馬鹿かどうかをどうやって判断するか、だよね。何かの方法で私も馬鹿側に判断されてるんだ」
「なんだろなあ。僕はこの前の数学が赤点だったけど」
「そんなしょうもねえところで判断してもなあ」
「私はそれかもと思うよ。この前のテストの日に風邪で休んだから〇点扱いなんだ」
一同が納得しかけた所に、後ろから声をあげる生徒がいた。
「おい、画面見てみろ! あいつがなんか悩んでるぞ!」
「まさか見えないのか?」
「数学が赤点だったのかあ!?」
仮面の人間は困り顔で席を外した。これはチャンスだとクラス全員が理解した。相手に刀身が見えないなら、間合いの見極めができない。さらにはこちらの全員に対し、持っているかいないか判断ができない。たった一本の剣を全員が共有できるも同然だ。
クラスの全員が、手元をハンカチや上着で隠し、一定の距離を空けて散開した。自称ゲームマスターがどこかに隠れているはずだ。おそらくこの学校にいると判断したのは通信のノイズに注目した生徒の手柄だ。
数に対して打つ手を持たずに始めた模倣犯にできることは、たった一人の優秀な部下に泣きつくばかりだった。
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