2021年04月11日【時代小説】晴れ/レモン/業務用のかけら(1426字を/46分で)
晴れの日は絶好の鉱山労働日和だ。
内部での作業に限れば雨でも同じだが、一般的な鉱山労働者には行き来の道がある。い行きに雨が降っていたら汚れやすくなるし、帰りに雨が降っていたら些細な汚れが雨で広がってしまう。
反面、ギャング団が山中に集まりやすいのは問題だ。雨の日なら泥で痕跡が残りやすいので、集結したがらない。すると統率が取れた動きをしにくくなり、保安官が各個撃破をしやすくなる。晴れだと都合がいいのはギャング団も同じだ。
「おーし、休憩時間だぞお前ら」
リーダーの号令を受けて、一斉に入り口前のキャンプまで戻る。昼食つきの恵まれた鉱山労働者たちが、配られる食器を受け取り、倒木や岩肌の段差に落ち着いていく。
「あんた、新入りかい?」
Aは隣にいた、ぱっとしない顔の男、Bに声をかけた。手入れの行き届いていない髪や無精髭から直近の暮らしが見える。だらしなく半開きの口から幼少期からの暮らしが見える。おおかた、どこかで中途半端に問題を起こした末に流れ着いたごろつきの一人だ。
「今回で二度目。よろしく」
「よろしくな。これも食うか? 俺のオヤツだが
「いや、いらん」
Bは会話を拒否しているように見えた。もしくは、口下手なだけか。どちらにしてもAからは積極的な働きかけを控えるに十分な会話だった。Aはオヤツをしまい直す。
午後の作業へ向かう直前に、Bはトイレだとかで遅れていた。近くにいたAにトイレだとわかるように動いた。口下手のほうか。Aはそう理解してピッケルを握る。
しばしの作業をしていたら、背後から大きな音が聞こえた。爆発らしき轟音がひとつと、破片が崩れるような、中規模の音が重なって長く伸ばされた音。
より近い場所から確認した報告が聞こえてくる。
「何かが爆発して、入口が崩れた。脱出口を掘るぞ」
烏合の衆がどよめく。入口が崩れたとは、酸素の供給がなくなった事実を意味する。放っておいても呼吸で消費するところを、灯りの松明がさらに使ってしまう。
入口側が崩れたなら、相応の理由があるはずだ。柱を担当した者は「異常は見つからなかった」と言うし、リーダーも、その上の監督も同じだ。
まずは巻き込まれた者を把握する。リーダーが走って人数を数えた。この場にいるはずでいない者は一人だけだった。その名はB。
「まさかBが?」
「どこかの差金かもな。見ろ。近くにこれが落ちてた」
リーダーが見せたのは何かのかけらだ。ここの鉱山では採れない色をしている。リーダーによると、この小ささでも高温になると爆発すると言う。
「とにかく、入口まで掘りましょう」
「そうだな。あと、向こう側にも人手を回せ。どうせ狭すぎて余るから、別の道も開けるぞ」
リーダーは入口の他にもう一箇所を指定した。距離だけなら元の入口より短いが、こちらは岩盤が硬い。労力としては同程度で、それとは別にピッケルが保つかどうかの勝負になる。
Aがアイデアを出した。
「そのかけら、爆発させられませんかね」
「電気があれば、だな。ここにはない」
「いえ、電気なら少し出せますよ」
Aは手元からオヤツを取り出した。
「レモンです。説明は省きますが、二種類の金属があれば、電気を用意できる。ピッケルと、何か他にありますか」
リーダーは周囲を確認する。台車のホイール、ベルトの留め具、服のボタン。金属はいろいろ見つかるが、違う種類かどうかはわからない。
「試しましょう。成功を祈っていてください」
Aは手に着くところから試し始めた。
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