2021年04月10日【SF】林/DS/ぬれたかけら(1500字を/71分で)
林の中でクイズゲームをする。Aの両親が幼い頃に流行っていたゲームだ。すでに市販されていない旧型機だが、通信をしないスタンド・アローンのおかげで、充電が切れるまでの時間が十分すぎるほど長い。Aの使い方と合わせたら、無制限に遊べるのと同然だ。賛否両論のごてごてしたデザインは、SF漫画なら左手に、腕時計同然につけていそうに見える。
今では当たり前になったタッチ操作の先駆けで、選択肢ではなく自分で文字を書いて回答する。書き心地が紙とは違うので、どうしても崩れた字になってしまう。それでも読める程度ならば大抵は正しく認識してくれる。
別に、小学生にして旧型を好むかっこつけではない。Aは家庭の事情で、新しい機械を買うだけのお金がないのだ。どこかに逃げるにも、まだ助けは両親に味方する。
怪我の功名で、周囲があれもこれもと魅力を提示され時間に追われる中、Aは目の前にあるゲームにじっくり取り組める。自らの内面と向き合って楽しむ。朧げながら、この思考法はずっと使える財産になる予感があった。
特別な予定がない日は、正午近くに早めの昼食を食べて、近所の林にある秘密基地でゲームをしている。穏やかな環境音があるので音楽をかける必要がないし、太陽が時刻を教えてくれるので時計を持つ必要がない。
この日は着いてすぐに、昼寝をしてしまった。昨日は運動会の練習があったからか、今朝は珍しくもっと眠りたいと思った。わずかな時間だが、ここまでの操作を忘れてしまった。ゲーム機は見覚えがない画面を映している。
Sに似て、
8に似て、
必に似て、どれとも違う記号だ。
図形の名前を答える問題のようだ。どこかで見た記憶があるが、どこで見たのか思い出せない。記憶を辿るにも、出題ジャンルがわからずには辿れない。今わかるのは出題欄と回答欄だけだ。
わからないままで考えても仕方がない。まずは閉じて、気分転換をする。時間なら無限にあるも同然なので、伸びをして、物思いに耽る。言い方は大人びているが、主な内容は、学校やこの場にテロリストが現れたときにどんな立ち回りをするかだ。投げて使う武器なら、鉛筆をいつでも持っている。普段使いの一本とは別のスペアは、忍者が使う棒手裏剣のように、片方が鋭く尖っている。重さは軽いが、この尖り方は間違いなく痛い。
影はまだ短い。まだ正午に近い。
の他にも遊びものを持ってきている。塗り絵の本だ。使えば無くなってしまうが、一ページを塗り終えるまで一週間くらいかけている。塗り分けに力を入れればもっとかけられる。
塗り途中のページを開いた。鳥の絵が描かれていて、種類はタカとケラだ。大雑把な色付けは済んでいて、次は影をつける。色鉛筆の少し暗い色を取り出して、どの方向から光が当たるかを想像し、その光が届かない、影になる部分を塗っていく。少しずつ、繊細な味わいを出せるように塗っていく。
今日はここまでにする、とは現代人が苦手とする決断だ。もしかしたら過去の世代でも同様かもしれない。現代の娯楽は、何をするにも区切りがなく、無尽蔵に続けられる。自らの意思でやめ時を見つけなければならない。
過去の人たちは区切りによって強制的に終わりがあった。その状況に対し、もっと欲しいと考えた。なので新しいものは、無尽蔵に続けられるように作った。副作用として、やめ時を失った。
自らの意思で抜け出すまで、いつまででも囚われ続ける。娯楽用品で遊んでいるつもりで、娯楽用品に遊ばれている。
Aは、今日はここまでにできる。続きをまた今度にできる。塗り絵の途中でしまって、別の本を開いた。
クイズの本だ。次が最後の一ページとなる。
D.S.
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