2021年04月09日【サイコミステリー】林/猫/嫌な主人公(934字を/35分で)


 一日四本、感謝の四肢切断をする。Aは朝一番の習慣を決めて以来、毎日が清々しくなった。


 頭がすっきりして、好きなものを好きとはっきり言えるようになった。嫌いなものを嫌いをはっきり言えるようになった。


 Aの人格が伝わるようになったら、友好関係も広く堅く築けるようになった。たとえば、ゲームショップで遊び方が近い同士で集まり、さらにゲーム以外での楽しみ方が近い同士での関係も増えた。


 関係が増えると、社長や人事を担う者との繋がりができる。求めている技能を得意分野とする誰かを探している。そこにAを見つけたら、やることは決まっている。


「主人公になったみたいだ」と笑って当時を振り返る。林道を歩きながら、BとCのリクエスト通りに身の上話を聞かせた。


 この二人は、いわゆる一夜限りの仲だ。秘密を明かすならば、Bとは二度目になる。Aの私有地の林に、Bが手に余らせていた肉と骨を埋めた。同じ理由で今度はCが肉と骨を余らせたので、つてを辿ってAと引き合わせた。


 AとCは初対面なので、親睦のためにとびきりの思い出を喋りあった。予想以上に盛り上がり、十分な奥地に着くよりも前に打ち解けた。気をおかない言葉の応酬は、まるで高校を共に過ごした親友だ。


 三人組の前を動物が歩いていた。三本脚の猫だ。猫は背後からの足音に気づくと、一本の前脚でどうにか低木に飛び乗り、少しずつ高い木へ登っていった。


「Aさん、あの猫は?」

 Cが疑問を投げかけた。Cの場所からは猫の側面が見えていた。包帯で手当てをされたように見えたのは見間違いか、訊くのが早い。


「あれは今日と明日のだよ。じつは先月の犬が三本脚でね。その分をなかなか賄えなくて、この頃はずれたままなんだ」

「なるほど、それで。納得ですが、動物愛護団体が攻めてこないか心配になります」

「そう心配しなくていいさ。ストックが増えるだけだからね」

「それもそうですね」


 AとCの話を聞きながら、Bは後ろを歩いている。懸念ができてしまったのだ。


 Bは少し前に、本業の金属加工で事故に巻き込まれて、腕一本と脚二本を義肢にしている。Aのずれを整えるにちょうどいい物件なのだ。管理は楽な方がいい。包帯やその他の手当てもコストがかかる。


 その不安は朝を待たずになくなった。



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