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2021年04月05日【ギャグコメ】悪魔/アルバム/危険な剣(1392字を/49分で)
Aは引越し前の大掃除で出てきたアルバムを開いてしまった。高校を卒業した直後に異世界へ迷い込み、魔王を退治した写真だ。ずいぶん前のことなのに、まるで昨日のことと同じように思い出す。右側に後ろ姿え写るのがAで、左側で巨大な存在感を放つのが魔王だ。玉座から立ち上がり、長い二本角を揺らして魔力の渦を起こした。対峙する二人のマントが棚引く様子から渦の向きを観察した。魔王は二本の鉤爪を構えて視線を誘導し、本当の狙いは足の下にある。裸足でありながら硬い鱗に守られ、竜人の強みを活かしている。防御力と柔軟な動きを両立しているのだ。足で掴んでいた粉状の毒薬が、魔力の渦に乗ってAに飛来する。幸か不幸かこの日は雨だったので、魔王城の入り口前までに濡れていた。そのおかげで毒薬を逸早く見つけて、防毒の守護陣を扱う余裕があった。魔王はおそらく、この手で何人もの旅人を屍に格下げし続けてきた。防がれたとわかると鉤爪を構えて跳びかかったが、筋は悪く、あっさりAが勝利した。
本当の強敵は魔王を影から操っていた卑しい雌悪魔Bだ。魔王と違って外面が不要なので、全身が剛毅な鱗の鎧で包まれている。Aが持つ剣で貫くには試す前から心が折れてしまいそうだ。勝つ道を求めて周囲を見回す。魔王のお宅は殺風景で、Aの友人Cが夜逃げした直後に残された部屋を思い出した。椅子と机の他は、冷蔵庫の中身とトイレットペーパーが用意されただけの部屋だ。現地の道具は期待できないとわかり、手持ちの道具から答えを探す。つまり、剣で狙うべき場所だ。目を狙うのは王道だが、雌悪魔Bの巨体に飛び乗るには引っ掛かりがない。魔王のお宅は平屋だ。今時の魔王は財産が暴落するリスクに備えて生活水準を抑えて、質素な暮らしをしている。雌悪魔Bにとっても都合がよかったのだ。自らの目を狙う者は必ず二階を使う。その弱点を平屋ならば打ち消せるのだ。Aが攻め込めず、出方を窺う一方になっている。
この次の、雌悪魔Bの行動を思い出そうとした。結論としては剣で倒したと思うのだが、どのような過程だったかが思い出せない。Aは冒険の途中で、魔王との戦いに備えて情報を集めていた。実働部隊を率いる魔王と対峙したこともあった。カリスマに心酔する軍勢に紛れて脱出するイベントもあった。魔王との戦いはAの印象に深く深く根付いている。最後になっていきなり現れたボスは印象が薄いのだ。
「Aくん、どうしたの?」
背後からソプラノの声でAの意識は目の前の荷物に戻った。彼女は長く交際の果てに今やAの妻となった。家系も能力も美貌も持ち合わせる高嶺の花に対し、Aは彼女が甘えられる存在というだけで好意を受けるようになった。安定した世帯収入も、新居の建築も、ほとんど彼女に任せきりだ。Aは彼女に報いる使命感がある。
「アルバムが出てきてね。このアバズレ悪魔をどうやって倒したか忘れちゃったんだ」
「剣でひと突きって言ってたじゃない。けどあの剣も、ガサ入れの時に危険だから手放す方がいいかもね」
「銃刀法って単純所持もだめなんだっけ?」
「それ以前にどう見ても隠し資産よ。いくら私でも、税金がいきなり増えたら払いきれない」
「それもそうか。マルサは最強って言うし。念入りに埋めて隠しておくよ」
「指紋も拭いてね」
こんな時でも徹底しているなあ、と感心した。Aも徹底して愛を伝えようと考え、Bの柔肌を抱きしめた。
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