2021年04月04日【時代小説】秋/十字架/暗黒の城(884字を/29分で)



 江戸時代の日本は各地の大名に支配されていた。中でも悪魔との契約を交わした6人は、大名を支配する大名、人呼んで大大名と呼ばれ、その威光を僻地まで届ける。人間どもから恐れられながらも、戦う相手は悪の悪魔に限っていた。大名による支配を覆そうとする悪の悪魔は、手始めに平民を先兵として取り込み、年貢の取り立てを妨害する。兵糧攻めが本格的に始まったときが大名のタイム・リミットだ。秋になり、今年も実りの時期が来た。この時期に動向を探り、悪の悪魔に堕ちた者を把握する。そろそろなりふりを構っていられない。大名は秋のうちに計画を実行した。


 十字架を掲げた建物を各地に建設した。悪の悪魔に囚われた民どもは、弱みを握られた様子で十字架に寄ってくると言われている。大名から見た民は、自らの善性をアピールするための行動に見える。こうして普段の悪行を覆い隠しているのだ。なので、あちこちに散らばるのではなく大名の管理下に建てたこの場に集めれば、労せずして一網打尽にできる。中にある程度の人数が集まったところで出入り口を封鎖し、地下に追い込んだ。


 悪の悪魔祓いは二通りの方法がある。


 ひとつは、正義の悪魔による誘惑で肉体を奪うもの。肉体の特性次第で通りやすさが異なり、完全に支配された肉体は奪い返せない。その分、成功すれば対抗する駒として動いてくれる。


 もうひとつは、力ずくで肉体から引き剥がす。こちらで引き剥がした場合は駒としての役目は期待できず、中途半端な剥がし方では逆に蔓延る原因にもなってしまう。しかも肉体ごとに適正な強さが異なるため、十分だと思ってもまだ足りない場合がある。そのため、確実な判断が可能な者を担当にし、確信できないならば念の為で強く引き剥がす。


 とはいえ悪の悪魔は、肉体が死亡するまで支配したままの場合も度々あるので、大名の建物は実質的に処刑場でもある。数々の道具には血液やリンパ液が染みつき、動き始めてから数日後には入っただけで顔を顰める悪臭で満ちた。


 悪の悪魔の間では、暗黒の城と呼ばれている。地下室では今日も、悪の悪魔を引き剥がされまいとする叫び声が響いている。





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