2021年04月03日【邪道ファンタジー】来世/歌い手/真の枝(1082字を/40分で)


 巫女の歌と儀式により、死者の魂は来世に導かれると言われている。必然として、巫女はご機嫌取りの対象となる。嫌われれば来世はない。かといって疎遠すぎてもいけない。見知らぬ人間を気に留める理由うはもちろんないからだ。


 鼻つまみ者にも守るべきものがある。これは大きなビジネス・チャンスだ。来歴を問わず金を積むだけで儀式を執り行う、闇巫女は儲かる職業として人気が高い。多少の失敗があっても、来世になるまでバレやしない。各地でmそこそこ以上に歌がうまいものは、本業とは別に闇巫女活動をしていた。特に戦場の最前線では死者が多い。整列や指令を伝える楽器隊は追加で重要な役目を持った。


 Aは斥候として活動している。味方にも数人としか知らされず、山中で定点観測している。偵察するものを見つけたら、たとえ味方であっても始末する。Aへの指示はそれだけだ。決して見つけられてはいけない。自らの痕跡全てを消し、任期を全うする。


 明日で最後になる日に事は起こった。鳥や虫の鳴き声が変わった。何者かが通りかかったのだ。Aは匍匐の体制のままで、耳に伝わる音に集中した。右耳で空中を通る音を探し、左耳は穴に入れて土からの音を探す。足音の間隔で脚の数と方向の見当をつける。


 そこだ。静寂を守って目標に接近する。そこそこ程度に近い場所で休憩している様子だ。同胞に似た振る舞いだが、装備が違う。自然に溶け込むには不十分んあ装備なので見ただけで存在がわかった。味方であっても、これでは役に立たない。静かに背後を取る。


 もらった。そう思ったのと同時に、小さな短剣がAの肩に刺さった。後ろ向きのままで投げたのだ。正確な狙いと、それ以上に気づかれていたと気づかなかった事実がAを追い詰める。こうなったら隠れるだけ無駄だ。せめて相打ちに持ち込む。その考えを読まれていた様子で、焦ったAは次の一撃で叩き伏せられた。


「隠れるのが得意な様子なので、おびき出しました。残念でしたね」


 Aに向けてそこそこの声量で喋りかけた。不用意な発言だが、Aが叩き伏せられた瞬間を見ていては、別の意味が読み取れる。他の斥候にも気づいている。別の者が来た時も、慎重にさせて時間稼ぎをする。動きのない攻防だ。


「ご安心を。私が来世をあげます。長々とした儀式で隠していますが、実は必要なのは最後のひとつだけなんですよ」


 荷物から出した枝と葉でAの頭を撫でた。この辺りには自生していない植物だ。話が本当であってもなくても、この後で自身がどうなろうとも、疑心を植え付けるだけでやがて得るものがある。


 たかだか五百年程度は、大国の寿命と比べれば一瞬だ。





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