傑作選シリーズ5:追加エピソード
2021年03月29日【王道ファンタジー】神様/コーヒーカップ/悪のかけら(766字を/40分で)
コーヒーカップの神様と呼ばれる、ドベルの女性がいる。最新作は特殊な鉱石を取り入れて、作品名もそのまま『悪のかけら』と呼ばれるようになった。発掘できる地域と使い道の両方が限られているので、悪のかけらと呼んで取り違える事態はまだ一度も起こっていない。
ドベルは人間の膝程度の小柄な種で、それ故にコーヒーカップはちょうどいい大きさをしている。一方で横の大きさは人間よりも大きく、この体躯の特徴は様々な種と共生関係を築く上で有利に働いた。
「ごめんください。『悪のかけら』を買いに来ました」
人間の若い女性が訪れた。Aは褐色の皮膚に亜麻色のマントを纏って、牛乳の売り子として各地を回る。異色の組み合わせから誰とでもすぐ顔馴染みになった。憧れの人に会いに行く旅に向けて資金を貯めているとも知られている。日々の栄養を買うついでに顔馴染みの目標に手を貸せるとあって、売上げはピカイチだ。
この話はコーヒーカップの神様も知っているので「まけないよ」と釘を刺した。Aは貴重なお金を使って、自分用と、親友のために二つ目と、贈り物として三つ目を買い求めた。相手はもちろん、憧れの相手だ。
帰り道の牛車で、まずは親友のBと共に『悪のかけら』を持った。Bはリザードマンなので口が前後に長いが、ストローを使えば飲み物も扱える。『悪のかけら』に注いだ飲み物に成分が溶け出し、独特の匂いが鼻に抜けていく。食事と嗅覚が連動した種ならば満足できる代物だ。
何が悪なのかは秘匿されている。原産地の近くに拠点を持つ、大亀の学者たちは知っているそうだが、詳しくは決して語らない。命名した段階で思うことがあったらしい、とだけ語っている。
兎にも角にも、Aは間近に控えた出発の日を楽しみにしている。きっと喜んでくれると胸の奥を鳴らして、割れないように大切に、荷物の奥にしまった。
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