2021年03月24日【指定なし】来世/妖精/最初の恩返し(1986字を/114分で)
村を騒がせていた悪戯妖精をついに捕まえた。記録が残っているだけでも数々の騒ぎを起こしたので、村人たちはようやく安心して眠れる夜を取り戻した。最後に、これまでの愚痴大会が始まった。
夜中の山道で車を運走らせていると、運転手の目に強い光が当てられて、車はコントロールを失ってガードレールに突っ込んだ。適切な場所に細工して折れやすくなっていて、崖から投げ出された。その後はどうにか家に帰るまで、皮膚にハエの卵を産みつけられたり、ヒルに血を吸われたりした。
そのエピソードに誘われて、どんどんと愚痴が出てきた。屋根の内側にある銅をベニヤにすり替えられて雨で家が腐った。米櫃に蕎麦粉を入れられた。クローゼットにカマキリの卵を入れられた。
妖精はどこからか現れて、死亡すると来世として人間の魂になると言われている。妖精のうちに経験を積み、培われた経験を元に人間になるのが、個体差に繋がるのだ。
なので悪戯妖精人間になるのを防ぐ方法として、捕まえたままで死亡しないようにする。鳥籠の中に針金で固定し、小さな猿轡をつけて、それぞれをはんだで固定されている。
その状況をよしと思わない少女がいた。過去の行動を理由にして、加害性の発露をしているように考えたのだ。妖精に自然な寿命はない。これまで何をしたのであっても、やがて人間への影響を上回る苦痛を与える結果になる。
加えて、捕まえただけならば何かの理由で逃げ出す可能性がある。もし生きている限り問題を起こし続けるならば、今すぐに殺した後で、人間になった後でもう一度殺すほうがよい。それだけで未来に残す損失の可能性も取り除ける。
もちろん、人間になってから殺すとなったら、罪悪感に苛まれる個体もいると理解している。それでありながらも、妖精に対しては残虐非道な行いができる。自らの手を汚す覚悟もなく、矛盾した卑小な身を可愛がって、都合よく力でねじ伏せられる妖精に押し付けているのだ。
ニッパーで針金を切断しながら、考えを妖精に明かした。妖精は数日の絶食によってすっかりやつれている。初めに口を解放した。水と食事を与えつつ、返事を可能にする。今ならまだ、解放もできるし、殺害もできる。
あとは鳥籠だけの状態で話を促した。
「助かったぜ。あんたは恩人だ」
「まだ助かってないよ。先に返事を聞かせて頂戴」
「あくまで有利なうちに聞いておこうってのかい。あんたも人間だね」
「君の行く道でしょう。それに、解放したら今度は君が有利になる。対等には決してならない」
妖精は返事を考えながら、水とドライフルーツを口に入れた。本当は食事を必要としていないが、少女はそんなことを知らない。
「僕はずっと、人助けか仕返しをしてただけなんだよ。車に轢かれそうな子を守るとか、池に死体入りの冷蔵庫を捨てて味付けを変えられたからお米に味付けをしたとか。困ってたのは知ってる。僕が困らせた。けども一応、返す方が小さくなるよう調整したよ」
少女は考え込む。妖精の言葉には心当たりもあった。死体入りの冷蔵庫は、少女の兄が行方不明になったのと同じ時期に、兄の友人が冷蔵庫を買い替えていた。水質汚染による被害と比べたら、蕎麦粉で死ぬ人間の数は少ない。絶対数でも割合でも、池の近くにいたホタルの方が大きな損失を受けている。人類がどうなろうと地球は残るが、地球が無くなれば人類もなくなる。つまり優先順位は地球が上だ。
「なあなあ。あんた、パンも持ってるだろ。くれよ」
妖精の要求を受けて、ポーチからパンを取り出した。パターロールは一個だけでも妖精の体より大きい。鳥籠の中から手を伸ばして、どうにかいれたら、あぐらの前で抱えた。まだ食べるのではなく、匂いを味わっている。
「妖精さん、律儀なあなたなら、恩も返してくれるでしょう」
「わかってるね。もちろんだとも。恩は大きくして返すよ。ん? あんたの匂い‥‥」
「何?」
「や、まだはっきりしてないから答えない」
少女は首を傾げながらも話を続ける。
「命を助けてほしい。このままだときっと死ぬ」
「ああ、いいぞ。打算に満ちた考えは大好きだから、色をつけて最初の恩返しをしてやんよ。あんたでよかった」
妖精はそう言うと、抱えたパンを食べ始めた。掴んでは口に運び、一気に胃に詰め込んでいく。半分が無くなったところで手を止めた。
「食べすぎだよ。休んで」
「そんなもんじゃないぞ。急に食べたら、血糖値が上がって死ぬ」
「わかっていてそうしたのね」
「知ってるだろ? 妖精の来世は人間だってことをさ」
お知らせ
今回は書くときに、
作業用BGMを取り入れてみました。
ニコニコ動画にある、RPGの動画です。
そうしたらついつい、
目が文章より動画を見てしまったので、
時間がやたら長くなっています。
普段の休憩時間よりずっと長いので、
せっかくの記録が使いにくくなってしまいました。
ごめんよ。
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