2021年03月14日【指定なし】冬/氷山/最弱の脇役(1174字を/53分で)
冬は動きが鈍くなる。しかし条件は、相手も同じだ。
指の動きが鈍ると、キャラクターの動きが不正確になる。スティック操作は元より、ボタン操作も遅れたり押し間違えたりする。つまり冬は、寒さ対策もゲームの一部になるのだ。
今日のAは、対抗戦のために県外に呼ばれている。三人のチームで、互いに相手チームの三人と順番に勝負をする。チーム勝敗の決め方は、全九戦のうち四勝以上をした上で勝ち数が多いチームだ。同数の場合は、大将同士の勝敗をそのままチームの勝敗とする。
引き分け狙いは勝利狙いと比べて、技量に劣るプレイヤーでも担いやすい。目標とする結果が異なるので、試合を始める前から有利でいられる。そのための引き分け要員を連れたワンマンチームの跋扈は、時間と空間を浪費していながら、最初から一対一の勝負をしたのと同じ結果になっている。なので勝利条件の問題を正して、チーム四勝以上が定番になったのだ。
この変更で割を食ったのは、もちろん技量で劣る者たちだ。対抗戦の参加者は交通費の一部を連盟や部活動から支給されるが、観戦や補佐などでは自腹となる。すると新たな刺激を得るきっかけが減り、技量を伸ばす上で不利な状況になる。もちろん、ついでに観光する機会もない。
その条件下で、補佐として同行したのがBだ。実家が裕福なので不利さの影響を受けておらず、新鮮な風景を愉しんだり、その場に集まったプレイヤーたちの細かな機微を読み取ったりしている。
Aは狭い範囲に全力を集中させるタイプのプレイヤーだ。ゲーム外でのやり取りを見落とすので、その補佐としてBが押しかけている。この日は手を温めることと、食事の管理と、定期的な水分補給をさせる。しかしAはそれらの意味に全く気づかず、好意として満更でもなく受け止めている。結果的にはそれでも勝敗に繋がるので、今はそれでよしとしている。
現地の少年がBに野良勝負を挑んだ。未だに女性というだけで珍しく、偶然そこにいただけのBをあたかも女性代表と扱う者も多い。空想を根拠に見下しておきながら、勝利すればその結果を誇る。矛盾した虚栄心を曝け出す者を見慣れている。
Bは断った。野良勝負には、リスクを負ってまで何かを得る見込みはない。それよりも見学をして、動かし方に対する非言語的な理解を深めるほうが優先だ。脇役から脇役と言われようとも、自分の行動については自分が理解していればよい。
動き方にる、いくつかのパターンが見えかけている。序盤は「こんな感じの動き」で始めて、中盤の「こんな感じの動き」に繋げて、終盤の「こんな感じの動き」で決着する。見て、やってみて、また見て、またやってみる。その繰り返しで、Bは着実に実力をのばしている。もちろん弱者の仮面をつけたままだ。
これらはすべて、氷山の一角である。
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