2021年03月13日【SF】鳥/苺/最弱の記憶(673字を/25分で)
研究室の扉を久しぶりに開けた。何日も篭ったままで、最後の仕上げを済ませようと思ったあと、予想よりも時間がかかってしまった。他の研究員はいつの間にか帰っていたようで、時計は午前の四時を指していた。
そろそろお腹が空いたし、服も体も臭い。しかしそれ以上の用事が、部屋の外で待っている。ついに新型が完成したのだ。
早く試したい。発表やら何やらの面倒ごとはすべてBに任せて、Aは裏手にある畑へ向かった。室内にある、名前も忘れてしまった小さなサンプル植物に薬品を注入したら、時間も使わずに巨大に育った。
Aは、やがては自身にもこの薬品を注入して、強い体を得ようと目論んでいる。幼少期のAはいつも学年で最弱だった。運動はもちろん、算数も、理科も、友人との会話え苦手だった。何をやっても時間がかかり、最後まで見守られて完遂した後も、その成果は贔屓目に見ても出来が悪い。
国語の授業で読む物語ならば、こういうときに「鳥になりたい」と思うこともあるそうだ。しかしAの場合は、もし鳥になってもきっと飛べないと思った。だから地に足をつけてできることを探したのだ。
その結果が今の研究だ。間違えて変な薬を飲んだところ、脳のどこかと噛み合ったようで、薬剤の研究が可能になった。まるで鳥になったように、状況に対する答えをすぐに出せる。その成果は辛口に評しても的確だ。
この調子で体も強くする。最弱と言われていた面影をすべて取り除く決意がある。
まずは目の前の畑から、異常な成長をした成果物を採取する。顔ほどの大きさになった苺にかぶりついた。
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