2021年03月12日【ホラー】台風/少年/ゆがんだかけら(937字を/44分で)


 台風の前は生徒たちの家を回っていく。

 備えに足りないものがあれば、学校の備蓄から貸し出しをしたり、公共の土嚢を運ぶ労働力になったりする。Aは今年からこの地域に赴任してきた。ここ数年で、台風に加えて大雨も増えた地域と聞いているので、こういった活動も想定していた。


 生徒たちによると、Bという名の、一人の少年が転校してきた年から台風や大雨が増えたと囁かれている。気味を悪く感じた者らは多く、団結するための標的として都合がよかった。いつも熊のぬいぐるみを抱えているのもあり、狙える先が多く、逃げるには不利だ。

 ぬいぐるみの後頭部を使って、菌やウイルスのリスクが高い場所を拭き、口や鼻からの侵入を期待したり、殴る蹴るの暴行をぬいぐるみに加えたりした。肉体には証拠が残らないので、その場を発見する以外では本当かどうかを判断できない。なおかつ、相談を受けた大人にとっては、気にするなとアドバイスをするチャンスだ。大人たちは率先して傀儡となり、加害に加担している。


 Aはその噂だけは知っているので、証拠を確保できるよう探してもいた。公園にぬいぐるみが落ちていたので、拾い上げて、汚れていたので、まずは綺麗に毛並みを整えた。落とした汚れのすべてを袋に保存して、サインペンで日付と場所を書き込む。ぬいぐるみに盗聴器を仕掛けようとして、中のいい場所を探ると、硬い感触があった。


 入れるだけならまだしも、中身を探るには本人の許可なしでは申し開きができない。AがBを探そうと思って歩くと、すぐに正面から歩いてきた。


「ぼくのランくん、ありがとう」

「どういたしまして。ところでお腹に、何か硬い感触があったんだけど、なんだか知ってるかい」

「それはぼくの宝物だよ。見る?」


 返事を迷ううちに、Bはぬいぐるみのお腹を開封した。いつでも取り出せるように縫い目を緩めてある。自分でなら自由に取り出せるが、力加減を誤れば縫い目が外れて、すぐにわかるようになっている。


 中から取り出したのは、茶色の土器のような、ゆがんだかけらだ。


「昔の家には裏手にお堂があって、そこで拾ったんだよ。きれいでしょ」


 別の日に調べたところ、そのお堂に祀られていたのは、風雨を司る神様だった。



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