第3話
「その子に何しようとしてるの?」
いつもの様な飼い主に甘えてくる柴犬っぽさは、今の柴の顔には無くて、まるで飼い主を
「あ? なんだこのガ――ギャッ!」
1番左にいた、ひょろ長い金髪が柴に
「て、てめっ!」
後ろから柴に殴りかかろうとした、ずんぐりむっくりの男が、柴のハイキックをこめかみに食らってフラフラと右に倒れていった。
私の前に隙間が出来ると、柴が素早く目の前にやって来て、
「ちょっとごめんね。よいしょっ」
軽々と横抱きにすると、チンピラがたじろいで下がって空いた空間を利用して駅の方へ逃げた。
それなりに私は体重があるのに、柴は全然関係なさそうな様子で走る。
「止まれゴラァ!」
さっき柴にのされた3人以外が後から追いかけてきたけど、柴の方が速いから、全然追いつけそうもない。
「止まるのはお前達だ!」
「ゲッ! ポリ公ッ!」
そうしていると、進行方向にある駐輪場脇の高架をくぐる通路から、お巡りさんが出てきてチンピラを逆に追いかけ始めた。
「もう大丈夫そうだね。大上さん」
それを見て止まった柴は、私をスッと下ろして、いつもの様に甘える柴犬みたいな笑顔になった。
「ええっと、通報してくれたのは?」
安心しきって私がしゃがみ込んだところで、バインダーを持った女性のお巡りさんがやって来て、私達に優しく訊ねてきた。
「私です。絡まれてた子はこの人で、証拠写真抑えてあります」
柴は自分の携帯をスッと出して、柱の道路側に寄りかかって、怯える私の様子を撮った画像を見せた。
バイトを休みにして貰った私は、駅前の交番で柴と一緒に事情聴取を受けてから帰された。
気が動転していた私は、正直ちゃんと受け答えが出来る状態じゃなかったけど、柴がほとんど
「その、助かった……。ありがとな、柴」
「どういたしましてー」
「その……、なんで、あそこにいるって分かったんだ?」
「んー。何となくだよ」
「そうか……」
「あっ、でも強いて言うなら、愛かなー」
「いや、それはないだろ」
「えー」
なんとなく手を繋いだまま、駅施設の高架下の飲食店街脇にある、歩道のベンチで私と柴は一息つきながら、そんなフワフワした会話をする。
「……あんなにいっつも雑に扱ってるのに、そこまで気とか使うんだよ」
「ふぇ? 仲良くしたいからだよ」
「お前、私以外にあんなことやんないだろ」
「他の人は、別に放っておいても平気じゃん?」
「私は平気じゃないってか?」
「うん。さみしがり屋でしょ、大上さんって」
「……。そんな、事、は……」
ない、と、とっさに思ったけど、本当にそうなのか、とはっきり訊かれると全然自信はない。
でも昔から、1人で過ごすのが好きだったはず、と幼稚園のときを思い返してみると、
『ねえ、あそぼー』
『かみのけへんだからやだ』
『わたしもまぜてー』
『しってる! ふりょう、っていうんだ! にげろー!』
『かみきってもらったんだけど、どうー?』
『
『ゆうたくんすき』
『やだ。おかあさんが、かみをそめるこは、ちゃんとしてないっていってたから』
そんな事は無くて、私は仲良くしようと思って近づく度に、子どもの無意識な悪意にはじき返されていただけだった。
「――ああ。さみしいんだ、私……」
傷つくのに堪えきれなくなって、諦めてしまっただけで、本当は誰かといる事が好きなんだな。
だから、延々柴にまとわりつかれても、拒絶しきれなかったのか……。
「……ぁ」
それに気が付いた瞬間、ボトボトと涙があふれ出して、周りの目があるから私はとっさに顔を隠した。
「大丈夫? どっか怪我とかしてる?
流石の柴も慌てふためいて、
「そんなんじゃ、無くて……」
「わかった。ちょっとウチに行こう」
「は? 私の家……」
「じゃなくて、私の」
ここじゃ、思い切り泣けないでしょ、と言ってくる柴の顔を少しだけ頭を上げて見ると、馬鹿にするとかそう言うのは一切無い、優しい笑みを浮かべていた。
「いきなり行ったら迷惑だろ」
「大丈夫。私1人だから」
「……わかった。どこだよ」
「南口のすぐ近くだよ」
柴が言うには、出口から真っ
……案外良いとこ住んでんな。
というのは置いといて、厚意に甘えてさっさとそこへと向かった。
ちなみに、道中話してくれたけど、柴の実家がもの
そこは共同玄関が1階にある、1フロアに5室・3階建てのワンルームアパートで、柴の部屋は3階の前から5番目にある角部屋だった。
「どうぞー」
鍵を開けて、
「お、お邪魔します……」
他人の家に入ったのは生まれて初めてだったから、妙な緊張感の中でドアをくぐった。
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