第2話
授業中は1限目と大体同じ調子で、体育のときとかは、柴の方が早いのに長距離走でずっとご機嫌そうに併走してきたりした。
いや、犬の散歩かっての。
柴犬か柴かの違い以外は、ほぼ同じ光景を私は近所の公園で見かけたことある。
そんな柴だけど、ロッカールームの着替えではまぶりついてこなかった。
「お昼だね! お弁当持ってきてる? 大上さん!」
だけど、着替え終わって出た瞬間から、また無駄に
「うるさい」
「パンに合うおかず作ってきてるからあげるよー」
「お、
柴犬染みた決まり顔で柴がそう言ったときに、ちょうど教室から
「先生もああ言ってるしー。あっ、学食だった?」
「行くわけねえだろ、あんなキラキラした空気のとこ」
「じゃあ今日もパンかー」
「……おう」
「やっぱり素直だねえ」
「……」
あーあ。また、正直に言ってしまった。
素直なのは良い事だよねえ、と、柴はニヘニヘ笑って称賛してくる。
「ウィンナーと卵焼きと野菜いろいろだよー」
「卵焼きはパン向けじゃないだろ」
「あ、そうだね!」
教室に着くと、柴はシュバッと自分の弁当入れを取ってきた。……結構デカイな。運動部かよ。
助っ人はやってるっぽいけど、帰宅部の私に帰りのバスを合わせてくるから、部活には所属してないんだろう。
前の空席を反転させて、
次に、自分のヤツを出してきたけど、
「お前、前々から思ってたけど、弁当デカすぎないか?」
それは1リットルぐらい入りそうな、やたらデカイタッパーだった。
「このくらい食べないとお腹減っちゃうんだよねー。燃費悪いみたいでー」
頂きまーす、と男子ぐらいある量をモリモリと、かなりのペースで食べていく。
ちなみに中身は私のヤツに、冷凍っぽいハンバーグとエビシュウマイ、ハッシュドポテトが追加されていた。
よく食うな、と思いながら、私は朝コンビニで買ったスティックパンを食べる。
2本食ったところで、柴が用意していた先割れスプーンで、私は卵焼きを刺して口に運ぶ。
――うっま。
おにぎりから察しがついたけど、柴は料理がめちゃくちゃ上手い。
「美味しいって顔だ」
「……うるさい」
お茶で口の中の物を飲込んだ柴は、私の思ってる事を見透かした様子で言って、芸をこなして褒められた犬みたいに目を細めて言った。
しっかし、なんでコイツ、こんなに私に甲斐甲斐しく世話するんだ……。
正直、柴との接点なんか大してないのに、最初から好感度が振り切ってたのは意味がわからない。
とか考えている内に、柴は全部食べ終わっていた。
「食い終わったなら自分の席もどれ」
「はっ、しまった!」
食べ終わって、ほえー、としていた柴は、私の目の前にいる理由が無くなった事に、カッと目を見開いて気が付いた。
「自分の席を持ってくるまで!」
「来るな!」
柴は自分の席にダッシュしていくと、ひょいと自分の椅子を抱えて、私の机の脇にドンと座った。
「私の傍にいて、何が面白いんだよ。お前」
「なにもかもかなー」
「ああそう……」
一切嫌みのない満面の笑みでこういうこと言うから、邪険にしきれなくて困るんだよな……。
反応するから面倒くさいんじゃないか、と思った私は、そう言ったきり柴が絡んできても無視する事にした。
午後の授業も柴からの視線を感じはするけど、それ以上は何もしてこなかった。
帰りのHR中、こっそり荷物をまとめておいた私は、終わると同時に鞄を抱えて下校に移った。
柴に見付からないよう、真っ直ぐじゃなく、一旦、逆方向にある管理棟へ行って、2年生の教室前を通って昇降口へと向かった。
階段の上から確認すると、ちょうど柴がもの凄い勢いで通過して行った所だった。
あっぶな……。
少し待って、柴が居ない事を確認した私は、靴を履き替えると、教室棟前にある中庭を突っ切るルートで、駅まで向かうバスがくる所に行く。
茂みから隠れて、いつもより1本遅いバスに乗ると、柴の姿は無くて、どうやらアイツはいつもの時間のやつに乗ったらしい。
どうやら今日は、穏やかにバイトに行けそうだ。
耳にイヤホンを差して、先月メジャーデビューしたバンド・
駅の裏口で降りて、バイト先のコンビニへと線路沿いの道を早足で歩く。
……あ、ちょっとマズいかも。
公営の駐輪場を通り過ぎた所で、私の視界がぐらっときて足元がふらついた。
最近治まってたんだけどな……。
久々に貧血の症状が出て、私は高架の支柱の脇にしゃがみ込んだ。
とりあえず水分を摂ってじっとしていると、なんかガラの悪そうな男数人がこっちに近づいてきた。
しれっと逃げた方が良いか、と立ち上がったけど、またぐらっときた私は、道路側の支柱に寄りかかるのが精一杯だった。
「おいネエちゃん、具合悪そうだな? 送っていってやろうか?」
弱ってるのを見てか、ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべながら、私を取り囲もうと横に広がって話しかけてきた。
「いえ、お断りし――」
「おい。人が親切にしてやろうってのに、それはねえんじゃねえのかー?」
「い……っ」
一番ガタイのいい金髪の短髪が、なんとか逃げようとする私の手首を
余計な事、しなければ良かった……。
どうやっても逃げられそうにもない、と思うと、身体が強ばって助けを求める声が出せない。
「なに、悪いようには――ぐみゃぎゃッ!?」
金髪男が私の手を強引に引っ張ったところで、その口と目がパカンと開いて、なんかよく分からない声を出した。
男が股間を押えながら倒れて
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