第44話 厳しい選択
買い物を終え、三人で喫茶店に入る。
暑さと疲れでぐったりした体にアイスティーソーダが沁みわたる。
「それにしても買ったなぁ」
「夏物セールしてたからつい買いすぎちゃった」
真奈は戦利品の袋をポンポンと叩き満足げに笑う。
ちなみに俺はハーフパンツ一枚購入しただけだ。
「私もいい買い物が出来ました」
「よかったじゃん」
はじめはちょっと三ツ井さんを牽制していた真奈だが、彼女の優しさに触れて態度も軟化していた。
人付き合いが苦手な奏さんとも親しくなってきたし、三ツ井さんは本当に懐が広い人だ。
聞き上手な三ツ井さんを相手に、真奈は地元の話をはじめていた。
そのほとんどが自分の地元はいかに田舎でいけてないかという自虐自慢だった。
「真奈ちゃんの地元って素敵なところなんだね」
「ちょ、あたしの話聞いてた!? 田舎すぎていやになるよ。男子もダサい奴ばっかだし」
「モテそうだよね、真奈ちゃん」
「まー、否定はしないけど。でも興味ないから断ってるけど」
すぐに調子に乗るのが真奈の悪い癖だ。
ていうか普段エロいことばっか言ってる割に彼氏はいないのか。
ちょっと意外だ。
「そういう三ツ井さんこそモテるでしょ?」
「どうせまたオッパイのことをからかうんでしょ?」
「違うし! まー、確かにそのデカ乳に惹かれる男子も多いだろうけど」
「デカ乳ってやめて。なんか嫌。まだ巨乳の方がましだから」
失礼なことを言われても笑って流せる。三ツ井さんは大人だ。
「そのボインちゃんがなくても可愛いし、なにより性格がいいから絶対モテるよ」
「えー? ないない。可愛くないし、性格だってそんなによくないし。私に興味を持ってくれるわずかな男子も、残念ながらみんなオッパイにしか興味がないと思うよ」
そんなことを思っていたのか。
ちょっと驚いた。
別に三ツ井さんの胸に惹かれてる男子ばかりじゃないと思うけど、あんまりおっぱいの話をするのも恥ずかしいので無言でスルーした。
「そんなことないって。三ツ井さんみたいに可愛い女子、うちの地元にはいないもん」
「言い過ぎだって。そもそもうちのクラスには私より遥かに可愛い子いるし」
その発言で頭に浮かんだのは当然奏さんのことだった。
心臓がばくんっと震えた。
「えー、マジで? 謙遜してるだけでしょ?」
「本当だってば。安東ちゃんっていうんだけど、マジで可愛いの。ほら」
三ツ井さんはスマホを操作して奏さんの写真を見せてきた。
カラオケに行ったときの写真のようだった。
「うわ、ヤッバ! なにこれ!?」
「でしょー? だから私なんて全然だよ」
「んー、でもこれ写真だし。奇跡の一枚かもしれないから」
「いやいやいや。むしろ写真映りよくないくらいだよ」
「これで!? 」
真奈は目をまんまるにして驚いていた。
それを見てなぜか三ツ井さんは誇らしげだった。
「あ、じゃあさ。健斗から見て三ツ井さんとこの安東さんって子、どっちの方が可愛いの?」
「は? 俺に振るなよ!」
「クラスメイトだから両方知ってるんでしょ?」
「私も知りたい。教えて」
「ちょっ!? 三ツ井さんまで!?」
三ツ井さんは先ほどまでの笑顔を消して、妙に座った目でジーッとこちらを見ていた。
まずい状況だ。
俺の心のなかでは当然奏さんだけど、そう伝えたら三ツ井さんを傷つけてしまうかもしれない。
まぁ俺ごときが誰を好きだろうと三ツ井さんにはどうでもいいことなんだろうけど。
それでもやはり気分のいいものじゃないはずだ。
「ひ、人の好みは色々だから一概にどちらの方が可愛いとか言えないんじゃないかな? あはは……」
「他人はどうでもいいから丹後くんの好みを訊いてるの」
逃げようとした俺に厳しく追及してきたのは三ツ井さんだった。
これ、なに地獄だよ……
「あ、やっぱあたしも含めて! 三ツ井さんと安東さんとあたし。三人の中で一番可愛いのは誰?」
真奈は悪ノリしてズイッと顔を近づけてくる。
「こういうの、よくないと思うよ」
「いいから、早く!」
「教えて、丹後くん」
……女の子って怖い。
なんか泣きそうだ。
適当な返答では許してもらえそうもない。
それならいっそ正直に言ってしまおう。
「どうしても答えろって言うなら言うけど、俺は」
「やっぱいい! 言わないで!」
三ツ井さんはあわてふためいた様子で俺の口を手で塞いできた。
いきなりの行動に驚いてしまう。
「えー? 聞きたかったのに!」
「ごめん、真奈ちゃん。でも聞きたくないの」
三ツ井さんは申し訳なさそうに呟く。
「こんな風に無理やり聞くのってダメだと思うの。それに、なんか嫌な結果になりそうだし」
三ツ井さんはちょっと拗ねた顔で俺を見た。
「わかった! じゃああたしと安東さんの二人ならどっち?」
「安東さん」
「食い気味で答えるな! あたしだって女の子なんだぞ! 傷ついたし!」
「そんな簡単に傷つくならはじめから訊くなよ」
「ふんっ!」
俺たちのやり取りを見て三ツ井さんは微笑んでいた。
ちょっとヒヤッとしたけどなんとか危機は乗り越えられたみたいだ。
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