第43話 エロいとこ対微笑み天使

 音色は友だちとゲームをするという理由で買い物は俺と真奈の二人となった。

 このところ音色は俺と出掛けるより友だち優先だ。

 兄離れは嬉しい反面、ちょっと寂しくもある。


「色々買いたい服があるんだよねー」

「お金足りるのか?」

「もちろん! この日のためにバイトして貯めてたし」


 真奈は田舎に住んでいるのでこうして俺の家に泊まりに来ると買い物をしている。


「相変わらずお洒落が好きだな」

「都会で買い物して帰ると地元ではファッションリーダーになれるの」

「今どきネットショッピングも盛んだし、大袈裟だろ」

「ネットだと生地の質感とか微妙な着丈とか分からないでしょ」


 こだわりが強いらしく、通販で服は買わないらしい。

 真奈はデパートや量販店ではなく、小さなショップが軒を連ねる通りに向かう。

 買い物をするのはいつもここだ。


 古着や個性的なアイテムを扱う店が多い。

 歩いているのは俺たちのような高校生が目立つ。


「それにしても暑いねー」

「真奈の地元だって夏は暑いだろ?」

「気温はそんなに変わらないけど暑さの質が違う感じ。向こうは日陰にはいれば涼しいし、風もあるから」

「あー、それはあるかもな」


 アスファルトの照り返しやごみごみとした街の作りで暑さが籠ってしまっている感はある。


 しかし暑かろうが真奈はお構いなしに買い物を楽しんでいた。

 目を輝かせながらいろんな店を回っていく。

 それほど興味があるわけではない俺はバテバテでそれに付き合っていた。


「あれ? 丹後くん?」


 呼び止められて振り返ると私服姿の三ツ井さんが立っていた。


「おー、三ツ井さん。偶然だね! 買い物?」

「うん。丹後くんも?」


 三ツ井さんはチラチラと真奈を見ながら訊ねてくる。


「まあ、そんなところかな。買い物というより荷物運びだけど」

「荷物運びだなんて人聞きが悪い! デートでしょ、健斗」


 悪ノリした真奈の発言に三ツ井さんは驚いた顔をした。


「丹後くんの、彼女さん!?」

「違う違う。こいつはいとこの真奈。夏休みだから遊びに来てるんだ」

「そうでしたか。びっくりした」

「で、この巨乳美少女は誰なの?」

「ちょ、真奈。失礼だろ。クラスメイトの三ツ井さんだ」

「はじめまして。三ツ井です」

「どうもー」


 真奈は目を合わさず適当に返す。

 なんか感じが悪い態度だ。

 でも三ツ井さんは意に介した様子もなくニコニコしている。

 さすが微笑みの天使様だ。


「あー、そっか! 花火大会、真奈さんと行ってたんですね」

「花火大会?」

「三ツ井さんも買い物に来てるの? この辺りはおしゃれなお店が多いよね! 真奈もお気に入りのスポットなんだ」


 慌てて話を逸らしてごまかす。


「ねえ、健斗。暑いから早く行こう」

「そうだな。じゃあ三ツ井さん、また」

「あ、あのっ」

「ん? なに?」

「私も一緒に買い物付き合ってもいい?」


 意を決したように三ツ井さんが告げてきた。


「ダメに決まってるし! あたしと健斗がデートしてるって言ったでしょ」

「そ、そうだよね。ごめん」

「真奈。そんな冷たいこと言うなよ。よかったら三ツ井さんも一緒に行こう」

「いいの?」

「もちろん」


 真奈は不服そうだったけど三ツ井さんも一緒に買い物をすることにした。


「ねぇねぇ、このTシャツ可愛くない?」

「真奈らしいな。いいんじゃない?」

「丹後くん。このスカートはどう?」

「いいと思うけどちょっと短すぎない?」

「ねぇ健斗、こっち!」


 軽い気持ちで三ツ井さんも誘ったけど、競うように二人が話し掛けてくるから大変だった。


 二人はそれぞれ気に入った服を持って試着室に行ってしまう。


「モテモテですね」


 二人を待っている間、店員さんが冷やかしてきた。


「そんなんじゃないですって。だいたいあの髪の短くて騒がしい方はいとこですから」

「いいじゃないですか。青春って感じで!」

「全然よくないですよ」


 きっと真奈は都会の女子に負けたくないと張り合っているのだろう。

 三ツ井さんがそれにむきになって対抗しているのはちょっと意外だったけど。


「じゃーん!」


 カーテンを開けて着替えた真奈が現れる。

 オフショルのカットソーに巻きスカート風のショートパンツという、よく言えば健康的で悪く言えば肌を露出しすぎなスタイルだ。


 しかし爽やかな見た目の真奈には悔しいが似合っていた。

 お洒落が好きなだけあって、自分に似合う服装をよく理解している。


「へぇ。似合うじゃん」

「でしょー? 惚れ直した?」

「いや。ていうかもともと惚れてない」

「はあ? 素直じゃないんだから」

「失礼な。俺はいつでも素直で正直だ」


 そんなやり取りをしていると隣のカーテンも開いて、着替え終えた三ツ井さんが登場する。


 ゆるんとしたレース付きのカットソーと、ふわふわと柔らかそうなダブルガーゼ生地のスカートを穿いている。

 ゆったりした着こなしなのに胸元はポヨンっと強調しているのはさすがだ。


「どうかな、丹後くん?」

「すごくいいと思うよ。リラックスした格好なのに三ツ井さんが着るとだらしなく見えないね」

「ちょ、ズルい! オッパイデカイのは卑怯だから! チートだ!」

「卑怯って。それは仕方ないだろ。体型の問題なんだから」

「え? そんなに目立ってる? 目立たないようにゆったりしたのを選んだのに」


 三ツ井さんは割りと本気で凹んでいた。

 大きい人には大きいなりに悩みがあるのだろう。





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