第42話 いとこが来る夏休み

 夏休みの醍醐味といえばなんといっても夜更かしの朝寝坊だ。

 昨日も夜遅くまでゲームをして、今朝も両親が仕事に出掛けたあとまで寝ていた。

 怠惰な生活と分かっていてもなかなかやめられず、まだベッドの中で寝ていた。


 と、そのとき──


「ん?」


 プニッとしたものに触れる。

 なんだろう?

 寝ぼけた俺は目を閉じたままそれをプニュプニュと手探りで探る。


「あんっ! 健斗のえっち」

「わっ!? なに!?」


 慌てて起き上がると、いとこの真奈まなが隣で寝ていた。


「な、なんで真奈がここに!?」

「えー? 叔母さんから聞いてないの? あたし今日からしばらく泊めてもらう予定なんだけど」

「あ、そういえば」


 何日か前にそんなことを言っていた。


「ていうかうちに泊まるのは結構だけどなんで俺のベッドで寝てるんだよ!?」

「んー? 朝早くて眠かったから?」

「だとしても音色の部屋で寝ろよ!」

「いーじゃん。昔は一緒にお風呂に入ったでしょ」

「いいか、真奈。俺たちはもう高校二年生だ。お風呂に入ったのは小学二年生までだ」

「はい、ウソー。三年生まで入りましたー」

「細かいことはいいんだよ」


 こいつはいとこの丹後真奈。お父さんのお兄さんの娘で俺と同い年だ。

 夏休みなどの長期休暇になるとよく遊びに来る。

 明るくていい奴なのだがちょっと言動がエロいのが問題だ。


「それにしても健斗も大きくなったねー」

「どこから目線なんだよ」

「毛ももっさり生えちゃって」

「は!? お、お前、まさか……見たのか?」


 反射的に股間を手で押さえてしまった。


「恥ずかしがることないでしょ。一緒にお風呂に入った仲なんだし」

「ふ、ふざけるな! 何してんだよ!」

「ごめんごめん。お詫びにあたしのも見る?」

「見るか! てか部屋から出ていけって!」


 クッションをぶつけると真奈は「きゃー!」とかふざけながら出ていった。

 まったく相変わらずめちゃくちゃなやつだ。



 着替えてリビングに行くと真奈は音色とレースゲームをしていた。


「ぬはは、音色。まだまだよのぉ」

「むー! 真奈ちゃん汚いよ!」

「勝負にきれいも汚いもない。勝ったものが美しいのだよ」


 変わり者の音色だが真奈には懐いている。

 方向性は違えど変わっているもの同士、波長が合うのだろう。


「ねぇお兄ちゃん! 私の仇を取って!」

「しょうがないなぁ」

「ほお? 健斗が相手か」

「容赦なくいくからな」

「望むところだ」


 レースが始まり、終始俺のリードが続いた。

 真奈はあれこれとアイテムを使ってくるがそれらをかわしてリードを保っていた。


「どうした、真奈? 口ほどでもないな」

「くそー! こうなったら!」


 真奈は脚を伸ばして俺の肩を押してきた。


「うわっ!? 汚いぞ!」

「なにをしても勝てばいいのだよ、健斗くん!」

「ていうかスカート穿いてるのに脚あげるな!」

「んふふ。パンツに見惚れてると負けるよー」

「誰がお前のパンチラなんて見るか!」

「あ、ひどーい!」

「ちょ!? 足でどこ触ってきてんだよ!」

「おっきくしてるくせに!」


 相変わらず品性の欠片もない。

 見た目はショートヘアの爽やか女子なのに中身はエロい男子高校生だ。


「やりぃ! あたしが一位でフィニッシュ!」

「もう! なんで負けるのよ! お兄ちゃんのバカ!」

「手段選ばなすぎだろ!」

「勝てばいいのよ、勝てば」


 高校二年生になってもやはり真奈は真奈だ。

 呆れてしまうが、変わらないということに少しほっとする。



「お昼はあたしが作るから!」

「へぇ、真奈も料理できるようになったんだ」

「まぁねー!」


 腕捲りしながら真奈はキッチンに立つ。

 心配だからついていくと、鍋に水を張ってコンロに火をつけた。

 そしておもむろにそうめんを取り出す。


「もしかして料理ってそうめんか?」

「え!? なんで分かったの?」

「見れば分かるだろ。てかそうめんだけ?」

「そうだけど?」

「寂しすぎるだろ。天ぷらも揚げよう」

「えー? そんなの出来ないし」


 真奈は唇を尖らせて拗ねる。

 やっぱり真奈は真奈だった。


「じゃあ俺がやるよ」


 なすやカボチャなどの野菜、そして竹輪の磯辺揚げなどの準備をしていく。


「相変わらず手際いいねー」

「普通だろ、これくらい」

「うわー! マウント取ってきた!」

「取ってないし」


 青のりを混ぜた天ぷら生地に切った竹輪を絡めていく。

 油温が上がってから投入するとシャワシャワっと音を立てて気泡が上がる。


「男子がそんなに料理できると女子に引かれるよ?」

「これくらいで引く真奈に問題があるんだよ」

「そうそう。真奈ちゃんも料理を覚えないと」

「はあ? 音色ちゃんには言われたくないわ」


 仲のいい二人はまるで姉妹のようだ。



 完成したそうめんと天ぷらでお昼となる。

 サクサクの天ぷらとさっぱりとしたそうめんは夏を感じさせて美味しい。


「午後は買い物に行きたいなー」

「そうか。気をつけて行ってきて」

「は? 健斗も一緒に行くんだよ?」

「なんで俺が」

「どうせ暇なんでしょ?」

「まあ、そうだけど」


 マイペースな真奈に巻き込まれるのはいつものことだ。

 仕方ない。付き合ってやろう。




────────────────────



新キャラいとこの真奈ちゃんの登場です!

エロキャラ登場で丹後くんの夏休みはどうなるのでしょう?

そして負けるな安東さん!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る