第38話 オンライン勉強会
期末テストの勉強会は毎日行われた。
中間テストのときにも増して奏さんは気合いが入っていた。
恐らくテスト範囲が広いからだろう。
教育熱心な奏さんは学校の先生や予備校の講師に向いていそうだ。
しかしいくら熱心にすると言っても夕食までには家に帰らなくてはいけない。
「それじゃまた明日」
「あの、丹後くん」
「なに?」
「夕飯後にオンライン勉強会しない?」
「オンライン勉強会?」
「ビデオ通話をして勉強するの。分からないところは質問できるし、お互い相手が何してるか見えるからサボれないでしょ」
「なるほど。了解」
確かに奏さんに監視されていたらサボれない。
それにしてもほんと、やたら気合いが入ってるな。
夕飯を終えて午後七時半。
自室に戻ってから奏さんにビデオ通話をかける。
「あれ? これどうやるの?」
通信が繋がったが、奏さんは理解してないみたいで慌てている。
ビデオ通話しようと持ち掛けておきながらやり方はよく分かってないみたいだ。
「奏さん、もう繋がってるよ」
「わ、丹後くんだ」
無表情で驚く奏さんにもすっかり慣れた。
「こんばんわー」
「約二時間ぶりだね」
普段いつも顔を会わせてるのに始めてのビデオ通話だとなんだか照れくさい。
「じゃあ勉強しようか」
「何をすればいいの?」
「普通に勉強をしたらいいだけ。お互いの目があるからサボれないっていうのが一番の目的だから」
「なるほど。了解」
スマホスタンドに固定して勉強を開始する。
奏さんは背筋を伸ばし、カメラを意識した様子もなく真剣に勉強をしていた。
画面に奏さんが映っていると思うとなんだかそわそわして余計勉強が捗らない気がする。
これ、絶対好きな女の子としちゃ駄目な勉強法じゃないだろうか?
「丹後くん」
「なに?」
「チラチラ見ないで勉強に集中して」
「ご、ごめん」
見てないようで気付かれていたとは。
なんだかものすごく恥ずかしい。
奏さんに見られていると思いながら勉強すると手も抜けないし、集中できる。
分からないところがあれば聞くが、基本的に一人で勉強する感じでオンライン勉強会は進む。
ただそれだけなのになぜかいつもより勉強は捗った。
「あ、もうこんな時間か」
時計を見ると既に夜の十時半だった。
もう少し勉強をしたいけれどお風呂に入らなくてはいけない。
「本当だ。全然気付かなかった」
奏さんは時計を見て大きな伸びをした。
猫のようにしなやかな仕草だった。
「ありがとう奏さん。ずいぶん捗ったよ」
「うん。私も捗ったよ。ありがとう」
「じゃあまた明日」
「うん。またね」
奏さんはスマホに顔を近付ける。
「えっ?」
何事かと思ったが、どうやら切る操作をしたらしかった。
しかし機械音痴なのか通信が切断されていない。
そういう俺もはじめてビデオ通話したので切り方はよく分かっていなかった。
「ここを押すのかな?」
適当に押すと音声だけオフになってしまった。
てこずってる間に奏さんは立ち上がって服を脱ぎ出してしまった。
「え?」
ボタンを外し、シャツの前がはだける。
「わ、ちょっ、ちょっと奏さんっ! まだ繋がってるよ!」
こちらの声が聞こえてないらしく、奏さんはシャツを脱いでしまう。
これはまずい!
そう思いながらも視線が逸らせないのは男子の悲しい性だ。
「奏さん! 気付いて! まだ繋がってるから!」
背中に手を回し、ブラのホックに手をかけた瞬間、奏さんはようやくこちらを見た。
「きゃあっ!」と叫んだのだろう。
奏さんは顔を真っ赤にし、胸元を押さえながらしゃがみこむ。
「あ……いま、完全に恥ずかしそうな顔をしていた……」
いま言うことじゃないのは百も承知だが、嬉しさで思わず呟く。
奏さんは丸まったまま移動し、スマホに手を伸ばしてガサガサと操作する。
俺もなんとか音声を元通りに直した。
「丹後くんのえっち。切れてないなら教えてよ」
「ごめん。なんか音声が切れちゃって」
恥ずかしそうな顔の上、今度はちょっと怒った表情もプラスされている。
しかしそんなことを言える空気じゃなかった。
「本当にごめん。突然のことで俺もパニクっちゃって」
「……まあ、切り忘れた私が悪いんだし」
画面には奏さんの顔がアップで映っている。
引きの映像になったら見えちゃいけないものが見えてしまうからだろう。
「このことは二人だけの秘密だからね」
「もちろん。誰にも絶対に言わないよ」
「絶対だよ」
奏さんは拗ねた顔で念を押してくる。
言われなくてもこんなこと誰にも言えるはずがない。
お風呂上がりにもう少し一人で勉強しようと思っていたけど、今夜はとてもそんなことする集中力はないだろう。
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