第33話 人狼ゲーム
ある日のお昼休み。
弁当を食べ終えた俺たちのもとに三ツ井さんとその友だちがやって来た。
「ねぇ丹後くん、阿久津くん。人狼ゲームしない?」
「俺、あんまりやったことないよ?」
「大丈夫。私たちもそんなにしたことないから」
人狼ゲームとはカードを使ったゲームである。
村人の中に人狼が紛れていて、それが誰だかを当てるというものだ。
誰が人狼かみんなで話し合い、多数決で選ばれたものが吊るされて処刑されるという不穏なゲームである。
それが人狼なら村人の勝利、村人側なら人狼に村人が一人殺されてゲームは続行。
人狼側を全て排除すれば村人の勝利、村人と人狼が同数になれば人狼側の勝利となる。
役職は『村人』『人狼』の他にも色々ある。
たとえば村人側にはワンターンで一回他人の役職を一人だけ見ることが出来る『占い師』というものがいる。
占い師の予想をもとにみんなが人狼を探り当てるのがスタンダードな進め方だ。
他にもパン屋や怪盗など色んな役職がある。
「面白そうだしやってみようぜ、丹後!」
「まあ晃壱がするならいいけど」
俺たちが参加の意思表明をすると奏さんがスーッと近付いてくる。
「私も入れて欲しい」
「え、安東ちゃんもしてくれるの!? やった! もちろんいいよ!」
自らみんなとゲームをしようなんて素晴らしい進歩だ。
きっとみんなと関わることで自分を変えようとしているのだろう。
「安東さんはポーカーフェイスだから強そう!」
「これは神回の予感!」
「優勝候補じゃね?」
奏さんが参加するということでみんなが色めきだった。
今回はさんか人数も多いので役職は『人狼』『村人』『占い師』の他に『狩人』『村長』『てるてる坊主』という役職が追加された。
『狩人』は誰か一人だけ守ることが出来る。主に市民側のエースである『占い師』を守るのが仕事だ。
『村長』は誰を吊るすかの投票時に二票持っている。
ちなみに俺はこの市長となった。
『てるてる坊主』というのは厄介で、村人側でも人狼側でもない第三勢力だ。
『てるてる坊主』の勝利条件は投票で処刑になり吊るされることだ。
だから怪しげな言動を繰り返し、人狼だとみんなに思われなければならない。
疑心暗鬼が渦巻く中でゲームが進行し、二日目を終えた時点で四人が処刑や人狼の襲撃で脱落していた。
人狼は二人。
二回の処刑で人狼の一人は排除出来ているとすれば残すはあと一人だ。
しかしここで困った事態が起きてしまった。
「うわぁ、マジかぁ……」
なんと二日目の襲撃で村人側のエース、占い師が殺されてしまったのだった。
「カオスじゃん!」
「どうするの、これ」
「手掛かりなしなの!?」
占い師がいなければ誰が村人サイドなのか、人狼サイドなのか確証が持てない。
ガチ勢なら色んな考察もあるのかもしれないが、全員がほぼ素人だ。
ゲームマスターが「では会議を始めてください」と告げる。
残っているのは俺と奏さん、三ツ井さん、晃壱、そして
この中に『人狼』と『てるてる坊主』がいる。
「これはもう晃壱で決まりでしょ!」
真っ先に発言したのは乾さんだ。
晃壱を指差してそう決めつけた。
乾さんはショートヘアの似合う元気な女子だ。
三ツ井さんと仲がいい。
「ちょ、待て! なんで俺!?」
「なんか狼っぽいじゃん!」
「そんな理由で!?」
「確かに理由に無理がありすぎるかも。そんな理由で狼認定するなんて、むしろ乾ちゃんが怪しいんじゃない?」
晃壱の擁護をしたのは三ツ井さんだ。
「えー!? うちを疑うの!? ひどくない、三ツ井!」
「いやこれはそういうゲームだから」
わりとガチっぽく傷つく乾さんをフォローする。
「そうだ! みんな騙されるな! 乾が人狼だぞ!」
「ちょっとやめてよね!」
「乾ちゃん、なんかずいぶんと焦ってない? もう決まりだよね」
三ツ井さんと晃壱の二人に煽られ、乾さんはかなり焦っている。
人狼だから焦っているのか、濡れ衣で焦っているのか、判断はつかない。
ちなみに俺は『占い師』に『村長』だと指摘されていたので村人確定だった。
「騙されちゃ駄目だよ、丹後くん」
それまであまり会話に参加していなかった奏さんが口を開く。
全員の視線が集まるなか、奏さんはスッと手を上げて三ツ井さんを指差した。
「さっきから誰を追放するかの相談をするとき必ず最初に断定的になるのは三ツ井さん。そしてみんなそれにつられてその人を吊るしてきた」
「えっ……私は別に」
「三ツ井さんが人狼で、そうと気付かずみんな騙されているんだと思う。その笑顔に騙されて」
奏さんの指摘に衝撃が走る。
乾さんは横目でチラリと、晃壱は驚いたように目を見開き、人それぞれのリアクションで三ツ井さんに視線を向ける。
「ち、違うよ! 私そんなひどいことしないよ!?」
「なるほど。三ツ井が人狼か」
思わぬ援軍を得て乾さんは反撃とばかりにほくそ笑む。
「いやいやいや。待って。やっぱ普通に乾が怪しくね?」
「いえ。乾さんは恐らく『てるてる坊主』。吊るされようとしてるんだと思う」
「違うけど吊るされないならそれでいいや」
言われてみれば乾さんの急な晃壱人狼認定は不自然だ。
吊るされようと陽動している可能性が強い。
「うーん、でもなぁ」
「どうした、晃壱?」
「冷静に指摘している安東さんも結構怪しいよね」
「私も思った! 安東ちゃん発言少ないし、妙に落ち着いてるし!」
それは奏さんの通常運転だと思う。
でも確かにその特徴は人狼っぽい。
「違うって! 三ツ井が人狼なの!」と訴えるのは乾さんだ。
晃壱と三ツ井さんが奏さんを、奏さんと乾さんが三ツ井さんを、それぞれ人狼だと思っている。
二対二で分かれてしまった。
全員が俺の顔を見る。
「安東ちゃんが怪しいよね、丹後くん!」
「丹後くん、私を信じて。三ツ井さんが人狼よ」
人狼候補二人は特に熱い視線を向けてくる。
ゲームの成り行きとはいえ、美少女二人が俺を奪い合うように見詰めてくるのは緊張する。
「そろそろ投票時間です」
ゲームマスターが決断を迫る。
正直誰が人狼なのかさっぱり分からない。
三ツ井さんと奏さん、どちらかを信用するとなると、それは──
「お、俺も三ツ井さんが怪しいと思う」
「た、丹後くん……」
三ツ井さんは衝撃を受けた顔になる。
「では三ツ井さんを処刑します」
ゲームマスターは三ツ井さんのカードを取って、そして表を向けて俺たちに見せる。
「三ツ井さんは『てるてる坊主』でした。よって三ツ井さんの勝利です」
みんながどっと沸く。
「うわーっ! 騙された!」
「あれだけ吊るされるのを拒んだのは演技だったの!?」
「三ツ井、演技うますぎ!」
みんなの声が飛び交う。
しかしゲーム勝者の三ツ井さんは不服そうな顔で俺を睨んでいた。
「ごめんね、丹後くん。私が人狼だったの」
「え、マジか……」
奏さんがカードを捲って人狼だったことを教えてくる。
負けた割に声がちょっと嬉しそうに弾んでいた。
「ほらぁ! やっぱり安東ちゃんだし!」
三ツ井さんは拗ねた様子で俺の二の腕をぺしぺし叩く。
「い、いや、三ツ井さんは勝ったんだからいいでしょ?」
よく分からないけど、人狼ゲームは人間関係がややこしくなる危険な遊びだ。
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