第18話 連休最終日

 連休といっても特にすることもなく毎日ぼんやりと過ごしていた。

 一日だけ晃壱とも遊んだが、それ以外は特になにもない連休だった。


 ゲームをしてても、本を読んでも、料理を作っていても、ふと気付くと奏さんのことを思い出してしまっていた。

 最終日の今日もすることもなく、昼前からソファーでボーッとしている。



「──ちゃん! もうお兄ちゃん!」

「ん?」


 いつの間にか寝てしまっていたらしい。

 目の前にはむーっと不機嫌な顔の音色の顔があった。


「あ、ごめん。もうお昼だな。お母さんいないし、俺が作るよ」

「やっぱり忘れてた。私、今日友達と出掛けるからお昼いらないって言ったでしょ」

「そうだっけ?」

「もうっ! 最近全然私の話聞いてないんだから! きっとあの女のせいね」

「ん? なに?」

「な、なんでもない! とにかくもう行くから! お兄ちゃんも家でゴロゴロばっかしてちゃダメだよ」

「はいはい。音色も気を付けろよ。あとあんまり遅くなるな。明日から学校なんだからな」

「分かってるってば。じゃあね」


 音色はうるさそうに家を出ていく。

 中二病を罹患している割に音色は意外と友達が多い。

 まあみんな女子だからいいけど、彼氏とか出来たら俺もそわそわしちゃうのかな?


 そんなことを考えながらキッチンに立って、適当にパスタを作る。

 奏さんが作っていたようにペペロンチーノを作るけど、同じようにはならない。


 無音なのも寂しいのでテレビをつけるとバラエティー番組の再放送をしていた。

 最近よく見る漫才コンビとギャルタレントが足つぼマッサージをする場面だった。


「ヤダヤダ! これ痛いんでしょ」

「大したことないから」

「えー、絶対ヤダ!」


 ギャルは抵抗しながらもあっさりと椅子に乗り、パンチラ防止のタオルを腰元に置く。

 マッサージ師は表情を変えずにギャルタレの足を持ってグリグリとツボを押した。


「んぎゃああっ!? 痛いよぉお!」

「頑張れ頑張れ!」

「ちょ、無理ぃい!」


 暴れるギャルをお笑いタレントが押さえつけている。

 ギャルは顔を歪めて騒いでいた。

 足つぼマッサージってそんなに痛いものなのだろうか?


 今度は仕返しとばかりに漫才師のボケの方が椅子に座らされる。

 マッサージ師の先生はさっきよりも力を込めてグリグリグリッとマッサージを施行する。


「いっ、痛いいぃい! ぎゃあぁああ!」

「身体にいいんだからがんばって!」


 ギャルは仕返しでお笑いタレントを押さえていた。

 そのとき──


 ピンポーン……


 チャイムが鳴った。

 宅急便かなと思い、はんこを持って玄関にいく。


「はぁい」


 ドアを開けるとそこにはなんと奏さんが立っていた。


「か、かかなでさん!?」

「お土産を持ってきたんだけど」

「確か夕方遅くに帰ってくるんじゃなかったっけ?」

「その予定だったけど、ちょっと早めに帰ってきたの」

「そうだったんだ。よかったら上がって」

「いいの?」

「いま俺しかいないから」

「じゃあちょっとだけ……お邪魔します」


 俺の部屋かリビングかと迷い、リビングに案内する。

 ベッドもある部屋だとなんだかちょっと気まずい。


「実家はどうだった?」

「のんびりできたよ」

「久々だとご両親も喜んでいたんじゃない?」

「ええ。特に母は大喜びで」


 一人暮らしをしている娘が帰ってきたとなれば嬉しいものなのだろう。


「丹後くんはどんな連休だったの?」

「俺は毎日ボーッとしてたよ」

「出掛けたりしなかったんだ?」

「一日だけ晃壱と遊んだけどそれくらいかな」

「ふぅん。二人で?」

「そうだけど?」


 無表情で質問されるとなんだかちょっと緊張する。

 別に疚しいことはなにもないのだけれど。


 つけっぱなしだったテレビから騒がしい笑い声があがった。

 うるさいので消しておこう。


「あ、そういえばさっきテレビでやってたんだけど足つぼマッサージって痛いらしいね」

「そうなんだ? 私したことないこら分からないけど」

「やってみない?」

「……え?」

「痛かったらさすがに奏さんも表情に出るかなーって」


 殴ったり蹴ったりするのではなくマッサージなのだから身体にいいはずだ。

 痛くても身体にいいことなんてそうそうないから足つぼマッサージはもってこいだった。


「い、いま?」

「そう。嫌?」

「嫌って言うか……その、ブーツ穿いてたし……」

「あ、そうか。じゃあ一回洗ってからにしよう」


 足を洗ってもらう間にネットで簡単に足つぼマッサージについて調べておく。

 素人がやってどれくらい効果があるのか分からないけど、なんとなくやり方は理解した。

 指で押すより親指を握るように拳を作ってゴリゴリする方がやりやすいようだ。


「お待たせ」

「じゃあそこに座って」


 リビングに戻ってきた奏さんがソファーに座る。

 俺はその前にしゃがんでうやうやしい仕草で足を取る。


「あんまり痛くしないでね」

「もちろん。痛いときは言ってね」


 奏さんはこくっと頷く。

 別にマッサージするだけなのに、なんだかちょっと緊張してしまう。




────────────────────




次回はなんとマッサージ回です!


果たして奏さんは痛さのあまり表情を崩壊させるのでしょうか?

それともまさか……!?


乞うご期待!


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