第17話 はじめての表情
ヤバい!
ブロック落としをしてるときの丹後くんカッコよすぎてヤバかった!
興奮を抑えるためにもらった人形を思いっきり抱き締めてしまった。
「お昼にしようか?」
「うん」
「なにか食べたいものはある?」
「なんでもいいよ」と答えかけて、その言葉を飲み込む。
自分で決めずに相手に委ねるということばかりじゃなくて、自分でもしたいことを述べる。
以前丹後くんから教わったことだ。
「私はここに行きたいな」
マップを広げて指差すと丹後くんは笑った。
「おー、いいね! 美味しそう!」
選んだのはシーフードがメインのレストランだ。
魚や海老のフライがサクサクで、タルタルソースは濃厚。
付け合わせのオニオンリングも玉ねぎの甘さが引き出されていて絶品だ。
テーマパークの食事ってこんなに美味しいのかとビックリした。
「それにしても奏さんは絶叫系に強いんだね。ビックリしたよ」
「ごめん。やっぱりああいうときってキャーとか悲鳴あげてる方が女子として可愛いよね?」
対応の確認のために訊いたのだけど、なぜか丹後くんは笑い出してしまった。
「私、なにかおかしなことを言っちゃった?」
「いや。ごめん。なんか奏さんらしいなって」
「可愛くないってこと?」
「違うよ。別に叫び声が出ないなら出ないで問題ないよ。そんなことを考えなくても、普通にしてたらいいから」
「その私の『普通』が他の人の『普通』と著しく違わないか心配なの」
不安に思ってることを口にすると、丹後くんはニッコリとして頷く。
「『普通の人』なんて一人もいないんだから心配しないで。違っていてもそれは奏さんの個性だよ。それに感情を表に出せるように手助けするのが俺の役割なんだから」
丹後くんの言葉の一つひとつに胸が打たれてキュンとなる。
この人を好きになってよかった。
心の底からそう思えた。
でもそんな気持ちも無表情だからバレずに済んだ。
無表情もたまには役に立つ。
食後はまた二人でテーマパーク内を散策した。
ハチャメチャに回るコーヒーカップ型のライドに乗ったり、フリーフォール型アトラクションに乗ったり。
時間が経つのはあっという間だった。
日が暮れるとパークの景色は昼とは違った幻想を見せる。
パーク内の街を模した建物からは暖かな光が漏れていて、まるで本当に人が住んでいるみたいだ。
外灯の光は水面に映ってゆらゆらと浮かんでいる。
「そろそろ帰ろうか」
「……うん」
恐れていた一言を言われ、胸がチクッとした。
その瞬間、丹後くんは目を見開いて私を見た。
「いま、奏さん、すごく悲しそうな顔をした」
「え、嘘?」
驚いて自分の顔を触る。
「ほんの一瞬だけど。眉を下げて、不服そうに口を尖らせて、悲しそうな目をしていた!」
「そう、なんだ……」
「ここまで表情が動いたのははじめて見たよ!」
丹後くんは大喜びで私の瞳をじぃーっと見詰めてきた。
「そんなに見ないで。恥ずかしい。それに笑ったとか喜んだならさておき、そんなふて腐れた顔なんて……」
「どんな顔でも関係ないよ。表情が変化したことが大切なんだから!」
「でもどうせなら可愛い顔を見て欲しい」
「可愛いよ。奏さんならすねる顔も可愛い」
「えっ……」
自分で言って恥ずかしくなったのか、丹後くんは顔を真っ赤にした。
「よ、よし! じゃああと一つなにか乗ってから帰ろう! お客さんも減ってきたし、今なら乗りやすいよ!」
照れ隠しで丹後くんは妙なテンションになる。
私なんかより丹後くんの方がよっぽど可愛い!
「うん。じゃあメリーゴーランドがいい」
「いいね。締めに向いてるかも」
夜のメリーゴーランドはライトアップされていて、昼にはない幻想感がある。
二人で並びの馬に跨がると、サーカスのパレードみたいな陽気な音楽が流れ出して動き始めた。
「メリーゴーランド乗るとなんだか手を振りたくなるよね」
「分かる。私も同じこと思ってた」
丹後くんは笑顔で手を振ってくる。
ちょっと気恥ずかしいけど私も手を振り返した。
どこにも進まない乗り物なのに、すごく遠くまで行けるような、そんな気がしていた。
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