第11話 お気に入りのワンピース

 自分の好きなものを選ぶと言われても困ってしまう。

 子供の頃はお母さんが私に似合いそうな服といってあれこれ買ってきてくれた。

 正直どれもそんなにしっくりこなくて、結局同じ服ばかり着てお母さんを悲しませてしまったものだ。


 中学生になり自分で服を買うようになると、とにかくシンプルなものばかりを選んで買った。

 個性があるのはすみれ色のものを選ぶということくらい。


 今回はデート用の物を買うのだからもっと気合いを入れた可愛いものを買わなくちゃ!


 繁華街から少し離れた小さな雑貨屋やブティックが並ぶエリアへと移動した。


「とりあえず適当に見て回ろうか?」

「うん。じゃあこの店から」


 以前蘭花さんに連れられて入ったことのある店に入る。

 メインは雑貨だけれど洋服も少し取り扱っている店だ。


 やっぱりデートならワンピースかな?

 でもチェックのプリーツスカートも可愛いかも。

 あ、これは短すぎる。

 あんまり脚を出すのは恥ずかしいし。

 あ、これなんかいいかも?って、これじゃ今持ってるのと変わらないか……


「真剣に見てるね」

「ごめん。夢中になってた」

「いいよ。ゆっくり選んでね。奏さんが気に入ったものが一番だから」

「これなんて、どうかな?」

「ボーダーのカットソーか。爽やかでいいね」

「こっちの花柄のもいいかなって思うんだけど」

「うん。似合うね」


 丹後くんはニッコリと頷く。


「でもこういうワンピースもいいかなって」

「奏さんのイメージに合ってるね」

「なんか全部誉めてる。適当に言ってない?」

「そんなことないよ。奏さんは何を着てもよく似合うし」


 ちょっとムッとして言ったのにカウンターパンチをもらい、頭がフワッとしてしまった。

 ズルい!

 っていうか好き!

 バスケしていたときもかっこよかったし、二人きりのときに嬉しいこと言ってくれるのも素敵!

 いっそウエディングドレス買っちゃおうかな!


 いい洋服もあったけれど決め手に欠けたので次の店へと移動する。

 まあすぐに決めちゃったら買い物も終わってしまうのでもう少し長引かせたいという気持ちもあった。


 二店舗、三店舗と回るけどこれがいいという決め手に欠ける。

 グダグダと見て回るのに丹後くんは面倒くさがる様子もなく付き合ってくれていた。


「ごめんね。なかなか決められなくて」

「ううん。全然いいよ。奏さんの本当に気に入ったものを探して」


 最後のつもりで立ち寄ったお店で一着のワンピースを見つけた。

 袖も丈もゆるんとしているけどウエストをベルトで締めていて、崩れすぎていないシルエットが綺麗だ。

 なにより綺麗なすみれ色が目を惹いた。


「そのワンピース、似合いそうだね」

「着てみていいかな?」


 店員さんに訊いて試着させてもらうことにした。

 高校生になってから着たことない類いの可愛らしい服だった。

 鏡で全身を眺めると、無愛想な私には到底似合わないもののように感じられた。


「いかがですか?」という店員さんの声が聞こえた。


「私には似合わないみたいです」

「えー? そんなこと言わないで俺にも見せてよ」

「でも本当に似合わないから」

「そんなの見てみないと分からないよ」


 ここまで言われて見せなかったら丹後くんに呆れられちゃうかもしれない。

 意を決してカーテンを開ける。


「ど、どうかな? 変でしょ?」


 丹後くんはポカンとした顔で私を見詰めていた。


「やっぱり変だよね。ごめん。着替えるから」

「すごくいい。可愛いし、似合ってるよ!」

「えっ?」


 丹後くんはパァッと笑顔になって大きく頷く。


「私もよく似合うと思いますよ。紫色は大人っぽく見えるのでお客様にはもっと明るめの色の方がいいかと思いましたが、とてもお似合いでビックリしました」

「そうですか?」


 改めて鏡の前で自分の姿を確認する。

 さっきはあんなに似合わないと思っていたのに、丹後くんに誉められてなんだか急に似合っている気がしてきた。


「これにします。これをください」


 そのまま着て帰るくらいの勢いで店員さんにそう伝えた。



「お気に入りのワンピースが見つかってよかったね」

「うん。これを着て出掛けるからまたデートに誘ってね」

「ははは」


 言い方がおかしかったのか、遠回しのお断りなのか、丹後くんが笑う。

 そもそも丹後くんはまたデートに誘ってくれるなんて約束していない。

 それなのにデート用の服を買うなんて、先走り過ぎたかもしれない。


「ごめん。無理にとは言わないけど」

「なんで謝るの? むしろこちらからお願いしたいよ。また誘うからそのワンピースを着てきてね」

「……うん。ありがとう」


 やっば!

 キュンキュンして死にそう!


 自分で言っておきながら恥ずかしそうに頬を掻いてるのとかなんなの!?

 キュン死させるつもりなの!?


 やっぱり丹後くんは最高!

 好きすぎて死んじゃいそうです、私。





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