第37話 涙の無い未来へ
「あれ、そういえばリベちゃんのスピーチって明日だっけ?」
すぐさま声の調子を変えたプリエは、ふと思い出したようにリベルテに問いかけた。
「あ、はい! 民の皆さんに言葉を尽くしたいと思ってます」
「うんうん、お姫様っぽいね☆」
プリエが言うスピーチとはミロワルム王国の姫であるリベルテが、事の顛末を語る場のことだ。
彼女は姫として民たちに全てを説明する義務があると言い、そういった場を設けてもらったのだ。
「あ、てか思ったんだけど、リベちゃんはこれからどうするの?」
「どうする、とは……?」
「だってお姫様として国を引っ張っていかなきゃならないでしょ? 国を取り戻したんだから、【盟約の朱】を抜けちゃうのかなって」
その言葉にリベルテは稲妻が落ちたかのような衝撃を受けていた。
これまでは国の奪還に必死になっていたが、その先の事など考えてもいなかった。
「私は…………」
少し間を置いてリベルテは真剣な表情をフラムたちに向けた。
そして自分の意思を彼らに伝え始めた。
◆ ◆ ◆
翌日、復旧途中のミロワルム王国城下町には民たちが溢れ帰っており、ある一点を見つめていた。
それは街同様に復旧途中の王城、その屋上に立つ一人の少女であった。
絹糸のような美しい銀髪を風に靡かせたリベルテは、姫らしく純白のドレスでその身を飾っていた。
王城内部からテラスに歩み出てきた彼女に、身綺麗に着飾った灰銀色の髪の少年 アルジャ・ルーが、地面に片膝をつきながら献上するように水色の結晶を手渡した。
彼は奪還戦が終結した後、姉の意志を継いでリベルテの護衛に志願したのだ。
そんなアルジャに向けて笑みをたたえながらそれ受け取り、彼女は口を近づけて言葉を発した。
リベルテは三年前の悲劇を語り、国から一人逃げ出したことを心から謝罪した。
それからその時に命を落とした者、そしてこれまでに命を落とした者たちに黙祷を捧げ、言葉を続けた。
彼女は自分を救ってくれた者たちの存在を語り、彼らの力を借りて国を取り戻すことが出来たと胸を張った。
【
「私は彼らのように強く在りたい。叶うならば彼らと共にこの世界から転移者という存在を無くしたいんです……!!」
リベルテは足下に置いていた朱色の団旗を持ち上げて言葉を続ける。
その旗には門に剣が突き立てられた紋章が描かれていた。
「そうすれば私たちのように、転移者から大切なものを奪われて泣く人がいなくなる……」
そこでリベルテは一度息を吐いて、真剣な表情を民衆に向け直した。
「私はこの国が再び転移者たちの標的とならないように、彼らと共に転移者を根絶する道を歩みます……!!」
リベルテは旗を掲げたまま決意の声を上げ、この場にいる民衆全てに訴えかけた。
そして一瞬の静寂が城下町を包んだ直後、一斉に大歓声が国中を埋め尽くした。
亡国の姫である一人の少女がとある組織に救われ、祖国を奪還した英雄となった。
そして彼女は彼らと共に世界を救うことを誓い、死が付きまとう修羅の道へと身を投じる選択をした。
それは自国が再び脅威に晒されないため、そして世界中の悲しみの連鎖を断ち切るための決断であった。
ミロワルム王国を覆っていた悪は潰えた。
しかしこの世界にはまだまだ数え切れ無いほどの悪が蔓延っており、彼らはその闇を払い切るまで戦い続けるのだろう。
――これは大切なものを失った者たちの、復讐と救済の物語。
転移殺しのヴァーミリオン 夏芽 悠灯 @Haruto_Natsume
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