第24話 召喚者
通路に入ったフラムたちは前方を警戒しつつも、出来る限り急いで通路内部を駆けていた。
城下町に沿って伸びていたであろうカーブが終わるや、次に待ち受けていたのは緩やかな坂道であった。
王城は城下町よりも民家二軒分ほど高い位置にあるため、通路にも傾斜が必要なのだろう。
「うへぇ……。これだけ走ってきて、ここから坂道とか鬼畜仕様過ぎでしょ……」
「はぁはぁ……。本来城から下るためのものなので、滑り降りられるような設計なのでしょうか……?」
「あ~それはあり得そう……」
走り続けてバテ始めている女子二人がそんなことを口にしながらも、懸命に足を動かしていた。
「待て、何か様子が違うな」
そんな会話を背にして走っていたルティムが、足を止めて他の面々に声をかける。
その視線は左右のカンテラが無くなる位置に向けられており、彼らはゆっくりとそこに歩み寄っていった。
「これはいったい……」
そこで声を上げたのはリベルテであった。彼女以外の面々も声こそ上げなかったものの、目の前に広がった光景に目を奪われていた。
遠目からだとカンテラが途切れた場所が王城へ出口かと思っていたが、それは間違いだった。
坂道を上ったフラムたちはドーム状に広がった広大な空間にたどり着いていた。
円を描くように歪曲する壁に等間隔でカンテラが設置されており、さらには中央の天井に当たる部分にも巨大なカンテラがぶら下がっていた。
「なんだ、この空間は……」
そこへ足を踏み入れたフラムは周囲を見渡しながら小さく呟いた。
隠し通路に不必要な造形に、この場の誰もが不信感を覚えていた。
「ようこそ、【
その声は上部の巨大カンテラの方から降り注いできた。
刹那、その方向から真下に向けて漆黒の雷が落ち、空間の中央に着弾した。
砂煙の中から黒い電撃が地面に迸っている。
その様子を警戒しながら見つめるフラムたちは、すでに臨戦態勢に入っていた。
「これはこれは失敬。待ちくたびれたので大仰に登場しすぎてしまいましたね」
紳士のような口調ではあるが、どこか軽薄さが否めない声と共に、砂煙の中から黒い人影が現れた。
「なにあれ……?」
「黒い……影……!?」
その姿にプリエが目を細め、リベルテが両手を口元に当てて驚愕していた。
彼女たちの反応は当然のものであった。
砂煙から姿を現した人影は、文字通り全身が漆黒の影で、顔はおろか衣服さえも視認できなかったのだ。
彼(かどうかも定かではない)は中肉中背で、一つ特徴を挙げるとすれば背の高いシルクハットを被っている、紳士のようなシルエットの持ち主であった。
「どうしてお前がここにいる……?」
「いやぁ、最近新しい子を軒並み殺されているから、ちょっと嫌がらせをしにね」
五人の中で唯一驚愕の色が薄かったルティムが、視線の先の影に問いかける。
それに対してフラムたちには理解できない答えを返した。
「お前たち、ここは俺がなんとかする。だから先に城へ向かえ」
いつもより数段低いルティムの声に、誰も異を唱えることが出来なかった。
「そんなことしなくてもキミ以外は初めから通すつもりだよ? 【虚白】ルティム・ゴーシェナイト」
顔の無い不気味な影が言葉を連ねていく様は、見ている者を不安な気持ちにさせる。
「団長、あいつなんなの……?」
その空気に耐えかねたのか、プリエが表情を歪めながらルティムに問いかけた。
彼はあの影のことを知っているようであるため、質問を投げかけたのだ。
「あぁ、奴は――」
「構わないよ。ワタシが自分で名乗ろう」
ルティムがプリエの質問に答えようとした直後、影がそれを制して言葉を継いだ。
「ワタシは【
その返答にフラムとプリエが目を見開き、殺意とも取れる怒気が二人から溢れた。
「まぁそう怒らないでくれよ。【爀炎の復讐者】フラム・ヴェンデッタ。【不死鳥の呪愛】プリエ・コーラル」
「「ッッ……!?」」
その声は隣り合っていた二人の間から聞こえた。先ほどまで視線を向けていた位置に【召喚者】の姿は無く、瞬き程度の一瞬で彼我の距離を詰めてきたのだ。
「彼らに近寄るな」
そして影がフラムとプリエの肩に手を置こうとした瞬間、ルティムが彼の頭を掴んだ。
するといつの間にか純白の紋様を浮かび上がらせていたその手から、無色の波動を撃ち放った。
それはゼロ距離で放たれた影の頭を白色へと塗り潰し、硝子が破砕されるような大音を伴って吹き飛ばした。
頭部を失った影は波動が放たれた方向に倒れ込み、地面にぶつかる寸前――
「いきなりずいぶんなご挨拶じゃ無いか」
頭部を失った身体が目の前にあるにもかかわらず、最初に現れた部屋の中央から彼の声が聞こえた。
倒れ伏す頭部を失った影。
その先にいる五体満足の影。
二つが同時に存在していることに、ルティム以外の四人は目を白黒させた。
そして目の前の存在の異質さに怖気を覚え始めていた。
「ワタシは言ったはずだよ。ルティム・ゴーシェナイト以外は通って構わないと」
【
「【
「【
「【不死鳥の
「【
次々と顔の無い影に視線を向けられたフラムたちは、警戒心を露わに彼の一挙手一投足を注視していた。
「さぁ【狂笑の王】ヴェルクリエの元へ行くと良い。無闇に新入りを殺されるのは嫌だが、【
まるでサーカスの道化のように大仰に身体を動かし、影は奥へと続く道へ、ルティム以外の四人を
「大丈夫だ、先に行け。当初の予定とは異なるが、お前たちだけで転移者 ヴェルクリエを討つんだ」
あの影の横を通ることを警戒しているフラムたちは、一歩を踏み出すことが出来ずにいた。
しかしルティムの言葉に小さく頷くと、フラムを先頭に四人は奥へと続く道へ向かっていった。
「いってらっしゃ~い」
横を通り過ぎる際、影が軽薄な口調でそんなことを言いながら手を振ってきた。
それを横目に奥へと続く道にたどり着いたフラムたちは、至近距離でも表情を窺えなかった【
王城へと続く道へ入ったフラムは、残ったルティムに視線を送ろうと振り返った。
しかし――
「道が……!!」
視線の先からは先ほどの広い空間が消失しており、緩やかに下降する一本道が続いているのみであった。
「どうなっているんですか!?」
フラムの異変に気付いたリベルテが、彼の視線を追って同じような反応をする。
その驚愕は残りの二人にも伝播し、しかしアヴェルスの冷静な判断によって一行は冷静さを取り戻した。
「きっとあの影が為した御業でしょう……。拙者たちにあの場所へ戻る手段はありません。今は団長殿抜きで王国に巣食う転移者を討ちましょう」
「そうだね、ヴェルさんの言う通り。だんちょーの事だから、あんな真っ黒野郎に負けない☆」
未だに背後を見つめていたフラムとリベルテは彼らの言葉に納得し、小さく頷いて先を急いだ。
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