第13話 特別任務とは!?

「まあ、そう堅苦しくするな。我もおぬしに会いたかったぞ。」


 陛下はそういうと私の肩の側面をたたき、立ち上がるよう命じる。彼は臣下と共に先に歩みだす。彼はプロアイスと親しげに話しながら歩き、階段を上がると、執務室に入った。

 ことは急ぎ、早速本題と言うわけか。


 陛下は手をパンパンと二回たたくと、臣下がコップと瓶を持ってくる。

「これは我が国のリンゴジュース。歩いただろう。飲んでくれ。」


 何と気の利くお方だろう。彼自身が注ごうとしたので私は恐縮のあまり手を出して制止の合図をするが、彼はそれを無視してコップを差し出す。私は両手でそれを受け取ると、少しかしこまってなるべく上品な感じになるようにそれを飲もうとした。できなかったが。


 すっきりとしている。キリっと冷えていて、透き通っている。確かにうまい。私は一気にそれを飲み干すと、うますぎてコップをタンと少し強く置いてしまった。

 「あっ……すいませ、これはその……癖で。」


 「ジェニム・ロットや、我の頼みを一つ聞いてはくれまいか。」

 すました顔で切り出す陛下。私は「なんなりと」と答える。彼はまた手をパンパンと二つ叩くと臣下が色紙とペンを持ってきた。「これは……」


 「いや、実はだな。サインが欲しいのだ。おぬしの。」

 隣でにやけるウーナ・ヴェーデイン。こっこれは、そういうこと……なのか?いやしかし、サインとかないし、いや書けないとか言えないしどうしよこれ。しょうがない、ここで即興で考えて、今後もそれを使うしかない!!


 「よ、喜んでお受けいたします。」

 私は緊張で震えていた。そもそもこういうのは初めてだし。私はちょっと震えてしまったが、シャシャッと書き終える。それを陛下が受け取ると、またもすました顔でそれを見つめ、臣下に持たせる。

 

 「素晴らしい。我の部屋に飾っておけ。」

 陛下曰く、ネットで拡散されているジェニム・ロットの活動動画をご覧になっているという。なんというか、非常に恐縮である。


 「さて、本題だが」

 陛下が手を交差させてテーブルに肘をつく。

 「我が義兄弟であるルニアス・ジヴェジルスのことであるが……」

 彼が一体どうしたのだろう。

 「生存が確認できたそうで、私もうれしい限りです。」

 しかし、彼はニコリともしない。


 ここでウーナ・ヴェーデインから説明が入る。

 「私からはすぐに本国に帰属してほしいと通達した。シンテーア側としてもケニアズが生きているとなれば、帝国を再考させ新しい国家体制を確立させなければならないからな。」

 プロアイスの鋭い洞察。

 「つまり、彼が帰ってこないってことなんだな?」


 「そうだ。彼は我々天嶺連邦が技術統制ゲレンスト・ワルストに帰属するようにと返してきた。」

 「新手の宗教だか、なんなのかよくわからないが、惑星エルナー・ゲリテーンで何かが起きているようなのだ。そこで、精鋭兵士たるおぬしらに、兄者奪還の任務を任せたいのだ。」


 なるほど。彼が帰ってくれば、管理主義統合の象徴が一人帰ってくることになる。彼が帰ってくれば裏切ったアオン・シオンの心も変わるかもしれない。


 「何!?ルニアス少年が帰ってこないだと!?バックギャモーーン!!」

 AI老人がまた勝手に起動した。てかアマト陛下に先に挨拶させておくんだった。


 「こっこれは……、ギャッコー・セーヴェル老先生!?」

 やっぱり陛下もお驚きのようだ。

 「おや、君がアマト少年か!?話には聞いておったが、なかなかの好青年。」

 うーん。不敬罪で死刑!w


 「これはこれは。このようにしてお会いできるとは。」

 「陛下、これはAIのホログラムです。」

 すかさず事情説明を……

 「なんだ。」

 「なんだとはなんじゃ!?」

 「あいや、失敬。しかし、老先生もいるとは心強い。ぜひお三方で彼を説得し、呼び物していただきたいのだ。彼を奪還できれば我々管理主義の大いなる希望となり得ようぞ。」


 「わかったんだが!」

 「承知仕りました。」

 もとより『特別任務』を断るつもりはない。私たちは意気揚々と返事をすると、システムを皇帝執務室の通信装置と同期した。今日はここで休んでいくようにと陛下から言われ、お言葉に甘えることとなった。


 陛下と同志ウーナは相変わらず忙しそうで、話が終わると執務室でまた仕事を始めた。プロアイスは皇居の図書館で一日天嶺語の本を読みたいという。私はこの神聖な森を散歩し、自然を満喫し英気を養うこととした。

 

 

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