第8話 テン・ヴァイヤー、ゆるせん!

 ここはカードショップ・ヅェアネルク。最近はカードゲームWGの新弾が発売し、私はまたパックを開けていない。いつもとは違い、戦闘スーツは脱ぎ、ウィッグをかぶっておしゃれをしているゾ!

 

 まあ愚痴を言うと、ジエール時代私たち人工強化兵シュッリルムスライトは出かけるときもウィッグなどをつけなくてよかった。むしろ、バーコードが刻印されたこの頭が誇らしいとさえも思っていた。それが認められていた社会だったのだ。

 しかし、サーヴァリア人が支配者として君臨するようになってからは、人種差別が横行するようになり、特に私たち人工強化兵シュッリルムスライト残党は歴史的に「管理主義者の道具」だったことにされている。ということで、いまや外出するときはウィッグが欠かせなくなってしまったのだ。


 そして久しぶりに、戦友の人工強化兵シュッリルムスライトと会う約束をしている。


 「ヤッホー!元気にしてた?」


 こいつはS:1048-1038-6699AR、戦友だ。アル・ロットと呼んでいる。頬に刻印された部隊コードは隠しきれていないが、銀のウィッグにニット帽をかぶり、茶色いコートを着て、なかなかおしゃれな感じだ。

 彼女は私の数少ない友人で、人工強化兵シュッリルムスライトの一斉解放後は差別を受けながらも一般人民として生活している。


 「じゃあさっそくヅェアネルクいこっか~~~」


 私はこの黒銀機械戦士トークンデッキを回すために、昨日から調整していたのだ。パック開封も楽しみだ。


★★★


 「いらっしゃいませ~~~」


 ん、何やらカウンターで店員と客がもめてる?


 「いや、お客様お一人1BOXって言ったじゃないですか?」

 「いや、なんのこと?なんのことかわからないんだけど?」


 「いや、困りますよ。お客さん変装してるじゃないですか。さっきも買いましたよね。」

 「証拠はあるの!?証拠は!?」

 「しょうがないな、最後の1BOX!再入荷まで新弾完売!!」


 えっ……えっえっえっ。


 「ちょっと待ってよ。新弾開けに来たんだけど。いくつも買ってるなら、私たちの分残してよ!!」 

 アル・ロットが高い声を上げ、訴える。


 「いや、もう買ったもんね!」

 「すいません。もう売れてしまいました。」


 「そ、そんなぁ~~~」

 アル・ロットががっくりと肩を落とす。やけに分厚いコートをした、サングラスの人物がアル・ロットの肩を二回たたき、誘導する。

 そのまま店を出ると、

 「1パック500ズィンカでどうだ。」

 

 こいつ……


 「はぁ!?1パック300ズィンカでしょ!?」

 「ふうん、開けたいんじゃないのか。今このパックを買うには相場550ズィンカだから、安いはずなんだけどねぇ。」


 さてはこいつ……

 「闇取引集団"テン・ヴァイヤー"!!」


 私の声を聴くと、そいつはバッと後ろに下がり、黒いコートをばさりと脱ぎ捨てる。

 「ばれたらしょうがない!私はテン・ヴァイヤーの一員、カードハンター!!」


 「ええ?なにそれ?」

 アル・ロットがかわいらしく口を大きく開けて驚く。

 

 はい待ってました。

 「説明しよう!闇取引集団テン・ヴァイヤーは需要の高い商品を意図的に買い込み、それを高値で売ることにより差額を儲けようとする集団のことである。また、こいつらは過去に是正された通常の転売者と違って、組織性を持っているからもっとたちが悪い。」

 「ジエール統治時代は『人民供給阻害罪』という刑事法があったから、こいつらみたいな経済的マフィアは存在しなかったが、今となってはご覧の通りです。」

 

 「アハハ、ご説明どうも。まあでも、私たちがやっていることは合法だから!」

 正体がばれると少し嬉しそうにするのが拝金主義モンスターである。


 「そんな!自分たちはカードゲームをやらないのに、儲けのために買い占めるってこと!?」

 「ご名答!こいつらはこうして人民への再安価な供給を阻害し、その汁を吸う輩ってわけ!」

 

 カードハンターが勝手に振り返って背を向ける。

 「買わないなら帰るから。もっと欲しがっている人たちが私を待ってるからね。」


 なんて図々しいやつ。私が退治したやる。

 「やい!図々しいやつめ。私が退治してやる。デバイス・オン!!」

 「なんですって!?私は欲しい人に欲しいものを届けているだけなのに。なんてひどい人。あ、人じゃなくて人工強化兵シュッリルムスライトですか。」


 ヘ……、ヘイト・スピーチ……ゆゆゆ許せん!!

 こいつかたずけてくれる!!

 

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