第4話 孤高の騎士ケナイント!

 ゲリラ活動を続けるある日。


 「ゼェ、ゼェ……」


 騎士の強化スーツを着た戦士が、ぼろ雑巾みたいな体を引きずって、道端で倒れた。私は同じ管理主義の同志だと思って、近寄った。


 「近寄るな……」


 最後の力を振り絞ってか、私を振りほどこうとする。デバイスはパワーを失っており、頭部の装甲が自動的に外れる。


 「あなたは……」

 「あなたは、ケナイント・ルニャ元主席!?!?」


 ケナイント元主席。シンテーア管理主義革命時代から、ルニアス・アオン・ウーナの三銃士と共に管理主義社会の建設に貢献してきた人物だ。ヒェルニエが敵に占領されてから、捕らえられ、戦犯として死刑に処されたと聞いていたが!?


 「とりあえず、エネルギーを」


 私は自身のエネルギーを彼女のデバイスに転送する。彼女のアーマーが力を取り戻し、治癒を施す。


 「生きていたんですね、同志ケナイント!」


 私は大切な同志が生き残っていたことに感激したが、その表情を見るに、気まずそうだ。

 「余計なことをしてくれたな。私は、もはやこの惑星の敵。私がテラフォーミングと称して行った虐殺の歴史が、サーヴァリアのプロパガンダによって呼び起こされ、今やこの惑星の人民は私が売国奴として葬られたと思っている。私を助ければお前も同罪だぞ……」


 「もとより私は指名手配犯。それに、あなたはヒェルニエ戦争を引き起こしたが、それはヅェアトロット、エルトゥンユルントの人民を保護するため。あなたの活躍があったから、この近代化された惑星ヒェルニエがあるのではありませんか!?」


 「フ、そんなことを言うやつがまだ残っていたとはな。だが、このままのたれ死ぬわけにはいかん。たとえ売国奴として歴史に刻まれようと、私は管理主義に忠を尽くす……」

 起き上がろうとした途端、体が受けたダメージに耐え切れず、崩れ落ちる。治療はまだ完了していない。それにしても何という意志だろう。これが銀河の騎士と呼ばれた人物。この冷酷さは自身にも及んでいるのか……

 ここで、ホログラムのスイッチがひとりでに入る。デバイスがズーという音を立てて、老人を映し出す。


 「同志ケナイント!!生きておったか!!」


 老人の顔を見て、冷酷な騎士の顔も緩む。

 「老同志!これはどういうことだ?」


 「わしはアルバスラ博士が作ったAIじゃ。しかし、何年振りか。200年ぶりかな?」(※GSVwiki不死技術を参照されたし)

 

 「AI?ア、アルバスラ博士は無事なのか?」


 これに関しては、私から話さなければならない。

 「アルバスラ博士は、この戦闘スーツとデバイスを私に託し、玉砕しました。」

 あの時の光景は私の脳裏に刻まれたままだ。


 「なんということだ。全世界科学界の損失だぞ!!」

 彼女は目を吊り上げて、地面に拳をくらわす。反動が体に伝わり、その表情が変わる。


 「貴様、コードは?」


 私のスーツを見て、人工強化兵シュッリルムスライトであることが分かったのだろう。

 「S:1048-0060-8742RRです。ジェニム・ロットと呼ばれています。」


 彼女は振り返りながら、下を向いて言った。

 「第一世代の生き残りか。貴様たちの活躍は常に司令部から聞いていたぞ。皆、立派だった。私にこんなことを言う資格などないが、貴様たちには感謝している。」

 

 「光栄です。もう行かれるのですか?」


 「先ほど、戦闘に敗れたのだ。仕留ねばならん奴がいる。」

 そういうと、頭部のアーマーを起動し、歩み始めた。剣を杖にしないよう、気を付けながら、よろよろと歩んでいく。

 いくら何でもこの状態では無理だ。


 「私が、私がその任務引き継ぎましょう。」


 「そうか。なら私はそれを見届けよう……」

 今度は意地を張らずに答えたようだ。私を同志として認めてくれたのだろう。私は、彼女に肩を貸すと、彼女は不快そうにそれを受け入れた。


 「三銃士は、三銃士の行方を知っておるか……?」

 老人が騎士に尋ねる。まずい、私はこの老人に言っていなかったことがある。


 「三銃士か。あくまで町で聞いた噂だが……」

 私は下を向いた。

 

 「同志ヴェーデイン(ウーナ・ヴェーデイン)は無事だ。彼女は今臨時主席として惑星ヴェオン・レギトで残ったジエールの領土を統治している。風の噂だが天嶺皇に自国領土の併合を願い出て、天嶺連邦としてエミュンス(帝国)の復興を模索するのだとか。」

 

 「うぬぬ、帝国連邦が大事に育ててきた天嶺皇国に、運命を託そうというのじゃな。」


 「同志ジヴェジルス(ルニアス・ジヴェジルス)は搭乗した宇宙船が惑星エルナー・ゲリテーンに不時着し、その際死亡したと伝えられている。」


 「なに~~~!?ルニアス少年がシ、死んだじゃと~~~~?S:1048-0060-8742RR、おぬし、だまっとったのか!?」


 「気の毒だ。」


 いや、彼のことじゃない。私の使う管理主義語録カードにはもう一人の思想が多く含まれている。これを聞いて禁止されるようなことがあっては……


 「同志シオン(アオン・シオン)だが……」

 「彼は、研鑽主義に転向し……今惑星レーウスで臨時傀儡政権に招聘されたようだ。」


 ……。


 「バックギャモーーーーーーーン!!!!」


 ……。


 「わしの一番弟子じゃぞ?シオンが裏切っただと!?」


 そう、アオン・シオン彼は現代ジエールの父と呼ばれた人物。もとより経済学の才能があり、その才覚を生かし、管理主義統制経済の基礎を作り上げた。が、今となっては、拝金主義の仲間になってしまったというわけだ……

 しかし、心変わりする前の彼の思想は素晴らしいもので、それはまだ私の心の中に生きている……


 「S:1048-0060-8742RR。わしをシオンにあわせるのじゃ!!話せばわかるはずじゃ!!」


 とはいえ、惑星レーウスははるかかなた、私はどうにもできない。私が気まずそうに言葉に詰まっていると、老人は自らホログラムを閉じてしまった。

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