第66話 悪妻、絆される!?

 顔が見えなければ、大丈夫。

 そんな風に軽く考えた私は何と、愚かだったんでしょう!

 人間とは見えない状態にあるとかえって、想像力が働いてしまう生き物だということを忘れていたわ。


 見えないから、防御本能も咄嗟に発動してしない。

 モデストを殴り倒すこともないから、それはいいのよ。


 ただ、胸の鼓動は早まるばかり。

 はっきりと感じるモデストの体温。

 私の体温を彼も感じていると思うとさらに鼓動が早まりそう。


 お互いの体温をこんなにも感じるのは……二人ともほぼ裸に近い薄着だからじゃない!

 これはいけないわ。

 意識をしたら、余計に体温が上がる。

 気のせいではないわね。


 そう思うとさらに意識してしまい、集中が乱れて……気が付いたら、モデストに抱き締められたまま、ベッドと背中がお友達になっているんだけど?

 彼の腕が思っていたよりもずっと、逞しくて逃げられないし、何だか心地良くて……。


 これくらいは仕方ないかなと思っていたら、唇に触れる感触があった。

 ええっ!?

 口づけをされてる?

 どうしてこうなったの?


 そんな現実逃避をわたしがしている理由。

 これがわたしにとって、正真正銘ファーストキスだったから……。


 前世はそんなものなしに行為に及ばれましたし、とても愛があるなんて思えませんでした。

 ただ、義務のように抱かれるだけ。

 子供を産む為に抱かれるだけ。

 そこに愛なんて、なかった。

 そう思わないと生きていけなかったから。


 それが今はどうです?

 口づけされているだけでこんなにも幸せな気持ちになれるなんて、思わなかった。

 考えもしなかったけど、わたしは愛されているの?


「んんっ!?」


 わたしはちょっぴりですが、幸せを噛み締める余韻を味わっていました。

 これくらいなら、許しても構わないかも。


 そんな風に思っていたのが間違い!

 口づけは軽く、唇を触れ合わせるだけのものと思っていたのが間違い!


 モデストの舌がわたしの口内を蹂躙するように侵入してくるなんて、思ってなかったんだから……。

 気が付いたら、自分から舌を絡めにいってました。

 何で!? ええ!?

 分からない。

 自分で自分が分からないわ。


「セナ。いいかな?」


 布の擦れる音が聞こえて、モデストの声が耳元で聞こえる。

 あっ、それもいい。

 それすらも刺激的でつい頷いてしまったわたしの馬鹿!


 そこからはもう完全にモデストのターン……。

 それもずっと終わらないターン。


 目隠しをしているから、何をしているのか分からないという不安と期待が入り混じった妙な感覚の中、夜着を脱がされてしまった。

 そんなのは単なる始まりに過ぎない。


 モデストは本当に十四歳なのかと疑いたくなる。

 それはもう、ねっとりという単語が似合うくらいに深く、愛してくれた。


 わたしが声が出なくなるくらい感じるほどに長い時間をかけて、色々な場所をそれはもう、入念にしてくれたのだ。

 とても未経験とは思えない……。

 ひたすら翻弄された。


 行為が始まる前に何度、達したのか分からないで意識が朦朧とする中、わたしとモデストは初めて、愛し合った。

 前世では一度もなかった激しくて、狂おしい愛だった。


「セナ! どこにも行かないでくれ」


 わたしの中で何度か、果てたモデストが咽び泣きながら、そう言ったのはわたしの幻聴なのだろうか?

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