エピローグ
第67話 エピローグ・八年後
「おかあしゃま。おにいしゃまがぁ」
「あら? どうしたの。クレーテ」
わたしのエメラルドの瞳とモデストの濡れ羽色の髪を受け継いだ娘クレーテが、大きな目に涙を溜めて、駆け寄って来た。
今日は大事な日になるだろう。
わたしとモデストの息子ブラスとエンディア王女クロエの婚約式が行われるのだ。
トリフルーメにとっても隣国エンディアにとっても記念すべき日となって欲しいと願って止まない。
そう。
計算するとあの日、見事に大当たりした。
一発懐妊。
言葉にすると何だか、卑猥な感じだが事実だ……。
一度目の契りで本当にやりやがりましたのよ、あのハ……旦那様は。
でも、そんなことが分かる訳もなく、判明するまで毎日、抱かれたのですけどね!
翌日、わたしは午前中ほぼ起きられないくらいに疲れているのにモデストは毎日、元気だったのが実に腹立たしい。
今、思い出してもちょっと腹が立ってきた。
それで前世と同じ十七歳で
翌年にはクレーテも……。
これでさすがに王妃としての仕事は十分に果たしたと考えたわたしが甘かったらしい。
さすがに毎日のようにねっとりとは愛されなかったもののねっとりがこってりになったくらいで愛されている。
お陰で今、わたしの体に三人目の天使を授かっているのだ。
前世にはいなかった子……。
会える日が楽しみ。
「ははうえ~!」
「セナ」
ブラスと手を繋いでこちらにやって来るモデストを見るとこんな日が来るとは思ってもいなかっただけに感慨深いものがある。
前世の彼はわたしだけではなく、子供にも一切、興味を抱かない冷たい男だった。
ブラスやクレーテに愛情を注げないのはまだ、理解出来る。
わたしが悪妻という誹りを受けていたので仕方なかったのだろう。
今のわたしにはそう考えられる余裕が出来ているから。
当時のわたしにそんな考えは出来ず、後ろ向きになるばかりだった……。
だが、モデストは次々とお手付きをしては孕ませ、捨てるという所業を繰り返したのだ。
子供が会いに来ても一切会わなかったとブラスから、聞いて驚いたのを覚えている。
腹違いの弟に同情し、愛情を注ぐブラスを見て、父親に似ないで良かったと思ったものだ。
それがどうなのよ?
あんなに『お前の顔など見たくもない』と言っていた前世と違って、精一杯の愛情を示してくれる。
ブラスもそんな父親の影響がいい方向に働いて、前世以上にいい子に育っている。
クレーテの方がいささか、心配かもしれない……。
わたしもモデストも娘ということで少々、甘やかしてしまったことがあり、ブラスまでもが年子の妹を溺愛したからだ。
クレーテが癇癪を起しかけたのも最愛の兄が最近、冷たくなったのが女のせいだと幼いながらも気付いてしまったのだろう。
前世では父親の威を借った我儘な王女様だったクロエ姫がまさか、可憐なお姫様になっているとは思っていなかったので意表を突かれたが……。
そもそも父親のノエル王が前世と同じ名を持つ人とは思えないほどに善人なのだ。
好戦的と言われていたのが嘘のように鳴りを潜めて、ラピドゥフル王国との戦もなくなった。
それどころか、友好条約だけではなく、通商条約まで結び、今ではラピドゥフル・エンディア・トリフルーメで新たな三国同盟になりつつある。
その一環として、クラルスボヌス公爵家の娘がエンディアに嫁ぐことが決まった。
あのアリシアとチコの娘だ。
アリシアに良く似ていて、愛らしく、そして、元気過ぎる女の子に育っている。
『アリーが二人に増えて、大変ね』とシルビアは他人事のように言っていたが、ゆくゆくはエンディアの王妃になるかもしれないのがアリーそっくりで大丈夫なのかしら?
「今、行くわ」
「大事な体だ。無理をするな」
まだ、少々ぐずっているクレーテと手を繋いで待ってくれるモデストとブラスのもとにゆっくり向かおうとした時、天使が動いた。
上の子達よりも元気な子だ。
ふと足を止めるとモデストが労わるように手を指し伸ばしてくれた。
色々、あった。
だけど、今は笑い合って語り合える関係になっている。
悪妻と呼ばれたわたしが幸せになってもいいのかしら?
答えの代わりとでも言うようにお腹の中の天使が静かに蹴ってくれた。
Fin
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