第55話 悪妻、粉砕する
ベッドの上でぶつぶつと呟きながら、膝を抱えていたのに突如として、大声を上げたモデストに思わず心臓がドキッとした。
前世で彼に怒鳴られたり、
それどころか、興味を持っている素振りを見せたことさえないと思う。
好きの反対は嫌いじゃない。
好きに思っていた相手に全く、興味を持ってもらえないことほど、心苦しいことはないのだ。
それなのにあの日のモデストはおかしかった。
無理矢理、私の純潔を奪ったのだ。
それも三日三晩!
凌辱といってもいいくらいに身体を開発された。
そこに愛なんて、欠片も感じられなかった。
そして、私は
初めてで授かるなんて、大当たりにも程があるわよ。
「ひっ!?」
いつの間にか、目の前にモデストが立っていて、肩をがっしりと掴まれていた。
息遣いが荒い。
目が血走っている。
いくら鈍い私にも分かる。
分かってしまうのだ。
これはとても、まずい状況だってこと。
「セ、セ、セナ」
「ち、ちょっと待って! 落ち着きましょう」
あれ? おかしい。
天井が見えて、背中から伝わるのはふかふかとした気持ちのいいぬくもり。
まずい状況から、最悪の状況に変わった!
ベッドに押し倒されてるじゃない!!
「も、もう無理なんだ。我慢出来ないんだ」
私を押さえつけたまま、器用にアレを出すなんて、本当に十四歳なの?
閨教育でそういうのも教えられるのかしら?
何だか、複雑な気分。
モデストのモデストはもう今にも暴発しそうなくらいに元気いっぱいで相変わらず、立派だ。
って、マジマジとモデストのモノを観察している場合じゃなかったわ。
私が好きだから、我慢が出来ないの?
それとも男として、発散させたいだけなの?
あちこちに種を蒔いたのを私が知らないとでも思ってるの?
あっ。
でも、それは前世のモデストであって、このモデストはまだ、そういうことをしていないのだ。
だったら、許してあげるべきなの?
いや、やっぱり無理だわっ!
「こっちが無理だからっ」
ナル姉に教わった護身術。
女である以上、男の力の前に歯が立たない可能性が大きい。
だけど、相手が事に及ぼうとするその時にこそ、最大の隙が生じる。
まず、目の前に迫ってるモデストの顎を目掛けて、思い切り掌を突き出した。
それと同時に準備万端なアレを思い切り、蹴上げる。
何か、グニャとした嫌な感触がして、モデストの『ぐへ』という呻き声がした。
ごめんね。
でも、私は悪くないから。
同意もなしに事に及ぼうとしたあなたが悪いんだから。
いくら、書類の上では夫婦であっても。
政略結婚で世継ぎが必要であっても。
同意もなしにこの私を自由に出来ると思っているのがそもそもの間違いだから。
一声も発しないまま、顎を抑えながら、ピョンピョンと跳んでいるモデストを見るとちょっと可哀想に思えてきた。
痛そう……。
ちょっとやり過ぎたかしら?
彼がこちらの世界に戻ってくるまでかなり、かかった。
上がった状態になったのでどうのと言ってた気がするけど、何のことかは分からない。
潰した訳ではないから、大丈夫だよね?
今度、蹴る時はもう少し、手加減出来ると思う。
「ふんっ。ここから、一歩でもこっちに来たら、分かってるわね?」
ベッドの真ん中にシーツで壁を作って、そう宣言するとモデストはあの凛々しい顔でさめざめと泣いていた。
女々しいって感じとも違う感じがして、自分がしでかしたことを悔やんで泣いているのかも……。
だからって、壁を超えることは許しませんけどねっ。
こうして、私とモデストの初夜は夢も希望もない珍妙なまま、終わったのでした。
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