第44話 悪妻、星を見る
シルビアがいつもの『優等生なお嬢様』が嘘のように笑い転げているし、アリーは固まったままで動いてない。
この大惨事を招いてくれた当の本人は涼しい顔をしている。
といっても仮面のせいで半分は見えてないんだけど。
二人が元に戻る前に『兜と仮面は脱いだら、いいんじゃない?』とイディに耳打ちをした。
案の定、仮面の下で目が泳いでいるのが分かる。
こやつ、まだ私限定で発症する謎の挙動不審が完全に直ってないみたい。
「しっかりしてよ、イディ」
「え? あ……うん、分かった」
一瞬、彼の顔が鳩が豆鉄砲を食ったような驚いているように見えたんだけど、何でかしら?
その後、すぐにいつものイディに戻ったから、気のせいよね。
私とシルビアは口が半開きできっと結構な間抜け面になってることだろう。
アリーだけがついていってるみたい。
熱心にノートを取ってる。
真面目。
やれば、出来る子。
何だか、知らないけど、凄いやる気だわ。
「いいですか、皆さん。このストレンジャー式メソッドを使えば、一ヶ月での成績アップが約束されるのです」
兜と仮面を脱いだイディは長い棒を片手にビシッと『ここがスゴイ!ストレンジャー式勉強法』と大きく描かれた紙の説明を始めてる。
私には何のことだか、さっぱり分からない。
シルビアも同じようで普段、クールな彼女に珍しく、焦りの色が見える。
そして、イディの説明にそうだ! そうだ! と言わんばかりに跳躍してるその山羊は何なの?
山羊はいつ現れたのよ……謎が深まる一方だわ。
「いいですか。ただ、詰め込むだけなのはいけません」
「めえ~♪ めえ~♪」
そうなの!?
そう習ってきたし、そう生きてきたんだけど。
全てを否定された気がする……。
でも、私もシルビアも一級クラスなのよ?
イディは違うじゃない。
この自信はどこから、くるのかしら。
山羊が同意してるの?
もう訳が分からないよ……。
「分かったつもり。これが一番、いけません。これをなくします。詰め込むだけで活かすことが出来ますか? いいえ、出来ないんです。これをなくすのがストレンジャー式なのです」
「めえ~♪」
「学んだことを理解し、それを活かすには自分の言葉で語るのが大事なんです。アリーさん、苦手なのは歴史でしたね?」
「めえ! めえ~♪」
「えっ? あっ、そうなのよ。この世……そ、そう。歴史がよく分かんないのよね」
イディはまず、アリーの分からないところを聞き出してから、その部分を教えていく手法ってことかな?
確かにややこしいのよね。
全部、覚える必要なんてないとは思う。
でも、それ以外の方法知らなかったのだ。
『ねぇ、シルビア。あれって、丸め込まれてるっていうんじゃないの?』『そうですね。そのようにも見えますけど』なんていう会話をこっそりしてるが聞こえてないはず。
「めぇ~?」
「「ひゃっ!?」」
こっそり話している後ろから、山羊の顔がひょっこりと現れるもんだから、心臓止まるかと思った。
シルビアは相変わらず、まるで動揺していない。
表情一つ変えないクールなまま。
さすが、令嬢の中の令嬢。
完璧令嬢の呼び声高いシルビアだわ。
「あれ? シルビア? もしもーし?」
彼女の見開かれた菫色の瞳の前で手をヒラヒラとさせたんだけど、反応が無い。
これはもしかして、器用に気絶してらっしゃる!?
「めええええ~!」
「うにゃ」
呆然とした私がきっと無防備に見えたんだろう。
でも、そもそもがこんなとこに山羊がいることがおかしいのだ。
助走をつけ、勢いよく頭突きを繰り出してきた山羊。
全く、避けられない私。
見事に机とキスする羽目になったのは言うまでもないだろう。
その瞬間、お星様が飛んだように見えたのはきっと幻……。
あぁ、刻が見える!?
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