第28話 悪妻、熟考する
シルビアがアリーに説明をしてくれている間に知識をまとめておくことにしよう。
ラピドゥフル王国は代々、野心に溢れた王が多い国だった。
周辺国との間で国境線を巡る争いが絶えない好戦的な国。
それがラピドゥフルを見る目だったのだ。
しかし、実は外に目を向ける余裕などないのが実情。
相次ぐ、王の急死に後継者争いが勃発し、国内すら中々、安定しなかったのだ。
そんな中、国王の座に就いたのがヨシフ伯父様だった。
伯父様は野心を胸に秘めながらも好戦的な方ではない。
まず、長年争ってきた強国と戦うのではなく、
そこで結ばれたのが、南のラピドゥフル王国・東のファルクス王国・北のガレア王国による三国同盟と呼ばれる軍事同盟。
でも、同盟を結んだだけでは背中を預けるのは不安だったんだろう。
まずは血の結びつきで絆を深めようと考えた。
それで伯母様がファルクス王国に嫁ぎ、伯父様にはガレア王国の姫が嫁いできた。
さらにガレアの王太子ヨリックにウルバノの妹レアンドラが嫁ぎ、ウルバノにはファルクスの姫ファビオラが嫁ぐ。
考えれば考えるほど、ややこしくて、血も濃くなっている訳だ。
関係と絆は確かに強固なものとなったんだろうけど……。
だから、戦禍で逃げることを考えれば、北のガレアか、東のファルクスしかないのだ。
西には干渉地としての意味合いが強いモデストが治めることになるトリフルーメ王国があるけど、そのさらに西に攻めてくるエンディアがある。
西に逃げるという選択肢はないと考えた方がいい。
それに後のことを考えるとガレアという国は信用してはいけない気がする。
逃げたからといって、どうにかなるのかという大きな問題が立ちはだかるし……。
いずれ故郷に帰れるのなら、いいんだけど。
前世でのエンディアの精強さを見る限り、まず、無理だろう。
「終わった?」
「ええ。セナ、お話をどうぞ」
「ふぉぁ……」
アリーは魂が抜けたみたいに死んだ魚の目になっていた。
理解してるかはともかくとして、基礎知識は分かったはず。
シルビア先生の授業は伊達じゃないのだ。
「じゃあ、私達が出来ることは何か、ないのかということになるの。分かってくれたかな?」
「そ、それは何となく、分かったわ。でも、あたしが出来ることなんて……」
あるのよ。
あなたという本来、存在しなかった異分子が必要なんだわ。
「アリー、あなた……チコ王子のことはどう思う?」
「どうって?」
「結婚相手にってことよ」
「うーん、あたし。ショタはあんま、興味なかったんだよね。でも、チコ王子は悪くない。うん、悪くない」
「「し、しょた?」」
目が点になった私とシルビアを見て、アリーが説明してくれた。
『しょた』が年下のかわいらしい少年を指していると理解出来たのだ。
そして、彼女がチコに悪くない感情を抱いてることも分かった。
ならば、話は早い。
アリーとチコをくっつければ、いいのだ!
「アリー。あなた、チコを落としなさい」
「えー? あたし、暗殺者じゃないから、そんなことは出来ないって」
「王子様を狙っていたのではなくって? 案外、度胸ないのね」
シルビアがアリーに強く、あたるのはなぜかしら?
嫌ってるっていう訳でもなさそうなんだけど、おかしいわ。
私への態度との違いがあからさまなんだけど……。
「度胸とかの問題じゃないでしょ! 首を落とすとか、無理だって!!」
「「は?」」
あれ? この子、ちょっと……いいえ、かなりのお馬鹿だったのね。
異世界から来たとは言ってもまさか、『落とす』を首を『獲る』と勘違いするなんて、想定外だわ。
『落とす』の意味を教えたら、『あわわわ。あ、あたしはそういうのに免疫がっ!?ほ、本当にするの?』って、顔が真っ赤になった。
焦りまくっている姿も小動物ぽくて、かわいい。
かわいいんだけど、王子様を狙っていたのは事実だ。
そこを突っ込んで聞いてみると『乙女ゲーは全年齢向けだから、そういうのなかったんだもんっ』とまた、意味不明のことを言う。
『乙女ゲー』とは一体、何のことなんだろう。
「とにかく、私達がチコと結婚出来るように全力でサポートするわ」
「う、うん。よろしくお願いします」
殊勝になって、素直になったアリーはかわいい。
自称ヒロインとはいえ、納得出来るものがある。
ただ、同い年なのに妹みたいに見えるのは精神的な幼さのせいだろう。
私とシルビアが全面的にバックアップするのだ。
アリーをこの国を代表するような
前世でのチコはなぜか、女性恐怖症だった。
修道僧になりたいと王族を離脱して、修道院で一生を過ごしたのだ。
彼に何かあったのだろうか。
そうならないようにするのがアリーの役目だ。
チコを繋ぎ止めてもらう。
そして、国を支える有能な王子に教育する!
明日から、忙しくなるわね。
◇ ◆ ◇
これにて、『第一章 セラフィナ十二歳』は終わります。
次回から、十四歳になったセナの空回りする日々、『第二章 セラフィナ十四歳』が始まります。
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