第24話 悪妻、日和る

「あ、あく……ううん。セナ! あんた、いい人だったのね」


 おや? おかしいわ。

 何で私の手を握ってくるのかな。


 あれ?

 私、また何か、間違ったのかしら?


「アレシアさん。ほら、王子のところに早く行きなさいよ」


 ちょっと魂が抜けてる気がするけど、あなたの大好きな王子様がそこにいるでしょ。

 早く、どこかへ行ってよ。

 そんな私の心の叫びをよそにピンク頭は予想外の行動に出た。


「あんたが敵じゃないってことは分かったわ。だから、あたしとお茶しよう。そうと決まればっ!」


 言うよりも早く、私の手首をしっかり掴んで歩き出すもんだから、私はほぼ引き摺られている。

 何と言う力強さ。


 このままでは問答無用で連行されていく未来しか、見えない。

 でも、力が強い! 強すぎる!

 振り解けないし、魔法を使ったら血を見ることになるから、やりたくない。


「お待ちなさい」


 バシッという音とともに私の手首を掴んでいたアレシアの手をはたき落とした白くて美しい手。

 シルビアだ。


 ありがとう、シルビア。

 持つべきものは友よね!


「あなた、誰の許可を得て、セナを連れて行こうというのかしら?」


 どこからか取り出した扇子で口許を隠しながら、そう言い放つシルビア。

 どう見ても悪役令嬢にしか、見えないんだけど。


 迫力ありすぎ!

 いつものほわっとした雰囲気を醸し出しているシルビアとは思えないくらい、気合が入ってるわ。


「はぁ? 許可とか、あんた馬鹿? 友達がお茶をするくらい、許可なんていらないのよっ」

「誰と誰がお友達ですって?」


 私を間に挟んで火花が散る勢いで睨み合う二人の美少女。

 どちらも捨てがたいわね……。


 じゃなくて、王子を巡っての争いじゃなくて、私が原因なの!?

 おかしいでしょ!

 だいたい、いつお友達になったのか?

 問題はそこじゃないの。


 このままでは血を見なくても学園から、何らかのペナルティ間違いなしのコースだわ。

 そうするともう、これは腹を決めるしかない。

 さようなら、私の日常。


「分かったわ。誰も損しない方法を取れば、いいのよ。三人でお茶にしましょ」


 妥協?

 いいえ、戦術的撤退ですわ、オホホホ。


 少なくとも物理的な被害は出ません。

 放置されて、燃え尽きたのか、真っ白になってるチコに下手に関わるより逃げるのが一番だもん。


「セナがそう望むのであれば、わたしはかまいませんわ」

「だから、お茶しようって、言ったでしょ! さぁ、行きましょ」


 アレシアは今度は私だけではなく、シルビアの手首まで掴んだ。

 二人ともずるずると引き摺っていけるなんて、彼女の力は一体、どうなってるなの?

 たくましすぎるわ。


 何がどうして、こうなったのか、教えて欲しい……。

 果し合いの相手と女生徒の間で噂の喫茶店に行くことになるなんて、想定外にも程があるわ。

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