第23話 悪妻、強要する
トテトテとか、ピタピタいう可愛らしい音がしそうな走り方でやって来たのがこんがらがっている話をさらにややこしくしてくれる元凶と言うべき存在。
第二王子のチコだ。
弟にしか見えないから、苦手と言ったがそれ自体は嘘じゃない。
私がチコを苦手な理由は……
「僕を巡って、二人が争う必要なんて、ありません」
瞳をウルウルさせて、上目遣いに私とアレシアを見つめてくる。
そこなんだけど!
そういうところが苦手なのよ!!
チコ・ラピドゥフル第二王子。
私の従弟でウルバノ王太子の同腹の弟。
王位継承権二位の地位にあって、ハニーブロンドの髪にサファイアのような瞳という絵本に出てくる王子様そのものの見た目をしている。
見ていると目がやられそうなくらいにキラキラしてるのだ。
ただし、それは見た目だけ。
上辺は素材がいいから、いくらでも取り繕える。
そうなのだ。
この王子の見た目に騙されてはいけない。
チコは幼い頃から、要領がいいというか、腹黒い性格をしている。
庭園で遊んでいて、大事に育てられた花をチコが折ってしまった。
ナル姉は馬鹿がつくほど正直者だから、正直に謝るべきと言い出した。
ウルバノとマテオ兄も同意したし、私もそう思った。
チコだけが内心、不満を抱えていたらしい。
あろうことか、花を折った犯人を問われた際、自分の兄のせいにしたのだ。
当然のようにウルバノは否定したんだけど”兄だから”と”手本になるべき”と逆に怒られてしまった。
それを見て、チコがニヤリと笑うのに気付いた私はこいつだけは絶対に信用してはならないと心に誓ったのだ。
「チコ、あなたは呼んでない。邪魔する気なら、吹き飛ばすけど?」
横目で睨みつけながら、そう言ってもチコの胸には何も響かないだろう。
彼の狙いは分かってる。
自らの身も省みず、私やアレシアのことが心配で止めに入った。
そういう心優しい王子を演じたいだけよね?
「セナ姉さま。僕は本当にお二人を案じているのです」
本当に大した役者だわ。
王子をやめて、舞台俳優になった方がいいんじゃないかと思うくらい立派よ?
同い年とは思えないわね。
アレシアなんて、完全に騙されてるじゃない。
お目目が完全に恋する乙女になってるわよ?
あれ? これって、もしかしなくてもチャンス?
ここで私がアレシアとチコをくっつければ、いいのよ。
アレシアが絡んでくる理由が消える。
色々と目障りなチコにも鈴を付けられる。
一石二鳥だわ!
「そう。あなたは優しい子だものね。だったら、自分を慕ってくる娘を無碍に扱わないでしょ?」
「え? あ、はい」
微妙に言い淀んだのは本当はそうじゃないからなのよね。
相変わらず、腹黒いわ。
それでもこういうオープンな場所では周囲の目もあるから、『YES』と言わざるを得ないのよ。
それが仇となるんだけど。
「それなら、話は早いわ。こちらのアレシア・コルリス嬢があなたのことを大変、お慕い申し上げているそうなの。お優しいチコ王子は当然、受け入れてくれるのよね?」
私は解き放っていた風の魔力を収め、乱れた髪を整えてから、チコをビシッと人差し指で指した。
人を指差してはいけないと言われてるけど、ここはしょうがない。
演出として、重要なのよ。
ぐうの音も出ないのか、さすがのチコも苦虫を噛み潰したような顔になったから、指差しは効果抜群だったみたい。
普段から、猫をかぶりすぎのせいだと思うわよ?
「は、はい……」
私とアレシアの果し合いだけなら、遠巻きに見ているだけで終わっていたのに……。
そこにチコが出しゃばってきたから、ギャラリーというか、証人がたくさん増えちゃったのよね。
注目を集める存在だったのが運の尽きだわ。
「あ、あくや……」
「セ・ラ・フ・ィ・ナ! 悪役令嬢という名前ではございませんの。特別にセナと呼ぶことを許してやらないでもないわ」
正直、この時、何でこんなことを言ってしまったのか。
今更、後悔しても遅いけど、言うべきじゃなかったわね……。
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