第14話 悪妻、遭遇する
どんな人が当たってきたのかを確かめないとね。
この当たりの強さからして、女の子じゃないでしょ。
的確に急所を捉えてるって、言うのかな?
出来る者の仕業よ、これ。
正直、擦りむいた膝よりも背中の方が痛い。
「きゃあ、ごめんなさぁい。あれれ? あんた、悪役令嬢じゃないっ! 王子は? 王子はどこ?」
舌足らずで甘ったるいというか、聞いているとかわいいを通り越して、イラッときそうな声だった。
サラッと失礼なことを言われた気がする。
悪役令嬢って、あれでしょ?
ロマンス小説に出てくる主人公の前に立ちはだかるライバルの蔑称だよね。
そりゃ、私は猫目だ。
お母様も猫目だから、遺伝なんだろう。
きつく見える顔立ちだし、前世の記憶が戻るまでにやらかしているかもしれないけど、そんな言われ方をするほど悪事は働いてないつもりだ。
今は髪だってロールさせていない。
化粧もナチュラルで前みたいに派手なのはしていないのだ。
この言われようは何なのよ。
傷つくわ。
「あなた、失礼ではなくって? 他人にぶつかって、謝ることも知らないな……」
「うるさぁい。悪役令嬢に人権なんて、ないのっ! あたしはヒロインなんだからぁ」
あっ、はい。
私の言葉に被せてきやがりましたわ。
失礼を通り越して、呆れて物も言えない。
もしかして、会話が成立しないタイプなんだろうか?
モデストは言葉のやり取りは出来るけど、意思の疎通が出来ない感じだった。
この子は違うわ。
もっと根本的な部分の関係から、成立してない気がする。
自分のことをヒロインって、言いながらドヤァと鼻息荒く、私を見下す視線はヒロインとは対極にあるような醜いものに見える。
『あなたの方が悪役では?』と言いたいけど、言ったら余計に面倒そうだ。
やめておいた方がいいだろう。
「それで王子はどこよ? 教えなさいよ」
「王子? ウルバノ王太子のことを言っ……」
「それよ、それ。ウルバノはどこ? 早く言いなさいよ」
ふっ、ふふふっ。
ナル姉だったら、既に右ストレートを決めてからの左アッパーが決まっているわね。
むしろ、堪えている私だ。
自分を褒めてあげたい忍耐力の強さよ……。
また、被せて喋られたし、上から目線だし……ふぅ。
怒りのあまり、ちょっと風の魔力が漏れてきたから、髪がざわざわしちゃいそう。
我慢、我慢よ。
落ち着こう、私。
この子はきっとおかしいだけだわ。
今年は暑いから、頭をやられてしまったのね。
「ウルバノは去年、学園を卒業していますけど?」
「は? 何よ、それぇ! おかしいじゃないっ」
自称ヒロインは怒鳴り散らして、とても女のことは思えないような品の無い足音を立てながら、去っていった。
何だったのよ、今の……。
見た目は確かに
光の加減で緩やかな優しさを感じさせる薄い桃色をしたストロベリーブロンドの髪は美しい。
あまり見ない色合いだ。
腰まであって、瞳はサファイアのように青く透き通っている。
顔立ちもちょっと垂れ目気味に見えるところが小動物のようなかわいらしさを醸し出していた。
確かにヒロインぽいだろう。
見た目と雰囲気だけは合格点。
でも、あれはないでしょ。
言葉遣いは乱暴だし、何より礼儀作法の”れ”の字も知らないんじゃない?
おまけに私のことを見下しているようなあの態度。
あの子と同じクラスだったら、最悪だわ。
そうよ。
学力は十分に満たしているし、無理に通う必要ないよね。
どうせ四年経って、卒業したら、モデストのところへ行くんだ。
休むことを前提にしようかな?
「はぁ……いたた」
擦りむいた膝からは多少、血が滲んでいるけど、それ以上に当てられた背中が痛い。
痣になっていたら、どうしよう?
帰ったら、ナル姉とノエミが心配するだろう。
ヨロヨロと立ち上がり、スカートの裾に付いた土埃を
どんよりとした曇り空のように憂鬱な気分で式の会場へと向かう。
周りの視線が刺さるようでちょっと痛い。
物理的に痛いのに加えて、心理でも痛い。
だけど、気にしては駄目。
私はセラフィナ。
『ラピドゥフルの薔薇』と呼ばれた女よ。
こんなことで俯いて歩くなんて、ありえないし、あってはいけないの。
あくまで淑女らしく、堂々と顔を上げていくのよ!
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