魂の洗い処

七海

プロローグ

"魂の洗い処"という場所がある。

僕が勝手に名付けたので正式名称とは異なるかもしれないが、便宜上そう呼んでいる。



雲みたいな白と灰色が入り混じったふわふわとしたものが果てしなく広がる、どこかおぼろげな空間。

そこに――神社にある手を清める場所、手水舎ちょうずやを思い浮かべてもらえれば分かりやすいだろうか。

屋根がありその下に水の入った石造りの台、そして手水が一つ置かれている。



その場所は、死んで天へ昇ってきた魂を清めるためのものだ。

作法としてはまず、置かれている手水で手を清め、魂へ一礼。そしてそれを手に乗せて静かに水の中に入れる。


すると魂の声が聴こえてくる。

その魂がどんな人生を送ったのか話を聴いて、それで清めは完了。


その先――僕には見えない所に魂の休憩処があってそこで休息したのち、また生を受けて下界へと降りる。




僕も果てしないその空間を進んで行けば、皆と同じようにまた生きられるのだろう。

しかし、洗い処で魂を清めることをやっている。



なぜ此処ここに居るのか、なぜこの役を担っているのか僕は知らない。

前世のことも天に昇って来たことも、この空間のように朧げで、掴もうとしてもその手は空を切って何も思い出せない。



けれど洗い処は嫌いではないし、特段先に行きたいとも思ってはないので僕は此処に居る。




清める前の魂は、透明の球体のようなもので、それに色がついている。

色は魂によってさまざまで、おそらく人生よってそれは変わるのだろうと僕は推測している。



輝いているものもあればくすんでいるのもある。

色鮮やかなものもあればドス黒いものもある。



善人も悪人も、分け隔てなく昇ってきて此処に来るらしい。

僕は話を聴いて、その色を無色にする。



その先は知らないけれど、きっと神様が次の生き先を決めているんだろう。




知ってる限りのことはこんな感じ。

僕は今日も此処に来た魂を、洗う。

安らかに休めるようにと――

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