第57話葵ちゃんに遭遇

 長身細身で長めのショートカット。

 鑑識官の制服を着た中性的な男性・・が、小走りにあたしたちの元へやってくる。


「葵ちゃん。久しぶり」

 軽く手を振るリカコさんに手を振り返し、人数を確認するようにあたしたちを見回した。

「あら、いいわね。ダブルデート?」


「違うわよ」

「ホント折角の日曜なのに、デートならこんな殺伐としたところじゃなくてもっとイイトコロに行くよ」

 即答のリカコさんに、ジュニアがジト目で葵ちゃんをにらむ。


「ね、理加子ちゃん。そんなことよりイチ君は?

 みんなそろってるのに今日は一緒じゃないの?」

 葵ちゃんの目がキョロキョロキョロと辺りを見回し、スモークを貼った黒バンの中まで見えないものかと、目を細める。


「イチなら」

「イチなら今頃は捜一そういちか鑑識じゃないかな。

 お使いで」

 言いかけたあたしをさえぎるように、ジュニアがにこっと言葉を被せてくる。


「えっ。鑑識うち?」

「おい葵。荷物運べ」

 パッと顔が光る葵ちゃんにバンから叱咤しったが飛ぶ。

「やば。

 すぐに行きます。

 理加子ちゃん。この前頼まれてたもの用意してあるから、帰りに鑑識に寄って頂戴。

 じゃあね」


 せわしなく帰っていく葵ちゃんを見送ると、ハザードランプが点滅して黒バンの鍵が開いた。

 いつの間にやら真影さんが車の影にたたずんでる。


 真影さんにお礼を言って荷物を積み込み、しっかりと午後は警察学校まで送ってもらう約束を取り付けて、あたしたちは一旦庁内へ。




「イチ帰ってこないね。

 そう言えば、なんで葵ちゃんにはおトイレに行ったって教えてあげなかったの?」

 エレベータに乗り込み、ジュニアに聞いてみる。


「んー。

 ホントにトイレに行ったかはわからないけど。

 ホントにトイレで鉢合わせたらちょっと気の毒かなって。

 男の情けってやつ」

「ふーん」

 なんかよくわからないけど、とりあえず相槌を打っておく。


「『葵ちゃんに遭遇エンカウント』とは、言い得て妙だな」

 カイリがあごに手を当てて何だか感慨かんがい深げに呟いてる。

「何故かイチってああいうタイプに好かれるんだよね。

 面白……じゃないや、

 可哀想」


 ジュニア。ニヤニヤが隠しきれてないよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る