第25話カイリはカイリで……
少し遅れて始まった体育の授業も、まるで身が入らない。
先生も、また誰かが倒れたりしたら。と気が気じゃ無いようで、ただ時間が過ぎるのを待ったような6時間目は消化不良な感じを残したまま終了した。
リカコさん。
やっぱりカイリの言うように無理しすぎちゃってたのかな。
廊下を運ばれていくリカコさんの姿が衝撃過ぎて、頭を離れない。
やっぱり。
「ごめん。先に教室に戻ってて」
渡り廊下から校内に戻った所で、先を行く深雪たちに声をかけると、あたしは保健室へと足を向けた。
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コンコンコン。
保健室のドアを叩いて顔を覗かせる。
「失礼します」
消毒液の匂いというか、独特な空気の一室で白衣を着た養護教諭があたしを振り返った。
ベッドは2台。
その両方共が仕切りのカーテンを開け放っていて、中には誰もいないのは明白で。
「どうかした?」
30代半ばくらいかな。
動きの止まったあたしに、声をかけてくる。
「あの。5時間目の終わりに女子生徒が運ばれてきたと思うんですけど」
いないのは分かっているけど、黙って帰るわけにもいかないし。
「ああ。
ちょっと前に気付いて終業のチャイムで教室に帰って行ったわよ」
事も無げに言う先生に、あたしは頭を下げる。
「ありがとうございました」
流石に2年の教室にまでは行けないしな。
後でLINEしておこう。
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保健室のベッドで由美の残していってくれた制服に着替え、体操着を胸に抱えて教室の扉を開ける。
教室の前の扉から社会の武藤先生が出ていったのを確認してから、リカコは後ろの扉を引いた。
主に女子から「大丈夫?」の声を聞き、リカコは軽く返事を返して自分の席に着く。
「理加子」
すぐに駆け寄ってくれた由美の不安を抱えた顔付きに、申し訳ない気持ちと感謝の気持ちが混同する。
「ありがとう由美。
制服助かったわ」
原因は明らかに睡眠不足による体力低下に過労。
まだ多少のダルさが残る身体に違和感があるが、動く事に差し支えはない。
「いいよ。
理加子がちゃんと復活出来て良かった。
それよりさ」
安堵の後に、にひひっ。と、いたずらっ子の笑みを浮かべて、由美が耳打ちをしてくる。
(この顔。何となくカエちゃんに似てるのよね)
耳を貸しながらふと、裏表のない可愛い妹分の顔を思い出した。
「ちゃんと烏丸くんにお礼しておきなよ」
(カイリ?)
急に出てきた思いもよらない名前にリカコの目が丸くなる。
「かっこよかったんだよ。
あたし去年は同じクラスでさ、なんか変な人。のイメージだったんだけど」
(うん。付き合い長くても、変な人のイメージだよ)
口には出さないけれど、由美の話に相づちを打つ。
「理加子が倒れた時、先生がクラスの男子に
『4、5人。運ぶの手伝え』って声かけたんだけどね。
恥ずかしがっちゃってみんなが顔を見合わせてたら、クラス違うのに烏丸くんがスッと出てきて、ひょいって理加子の事抱き上げて、スタスタスターって」
「え」
由美の嬉しそうな話し方に反比例するように、思考が停止する。
「烏丸くんに抱えられてるの、クラス中に目撃されたわけだ……」
その光景が脳裏に浮かんで、どうにか言葉を絞り出す。
先生か、もしくは複数に抱えられて運ばれのだろうとは思っていたが、まさかカイリとは。
全く接点のない男子生徒に運ばれるのもイヤだが、カイリはカイリで……イヤだ。
「クラスどころか、次の授業で体育館に来てた1年生にも目撃されてたよ」
(いち……)
「1年っ?」
リカコの脳内を一気にカエ、イチ、ジュニアの顔が埋め尽くす。
(~。みんなには。
せめてジュニアにだけは見られていませんように)
鬼の首を取ったようなジュニアの顔がアップになり、そう祈らずにはいられない。
「そう言えば烏丸くん。なんか怖い顔してたなぁ」
思い出したように由美の唇がつぶやく。
(あ。もっと自分を
リカコの胸にあった恥かしさと、ちょっとした怒りが、一気に罪悪感に押し流される。
(ちゃんと謝っておこう。お礼とね)
「長谷川さん」
胸に手を当て、ちょっと反省。のリカコに廊下側から声がかかる。
「お呼び出し」
(カイリ?)
視線の先。扉の影には背の高い男子生徒が立っていた。
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