第24話何事何事?
「体育ダルいぃぃ。
この週末の金曜。しかも最終の6時間目が体育とか、本当イヤっ」
ベシンッと机に叩きつけた、気力のない体操着を夏美が睨みつける。
周りに共感の空気流れる中。私は何気にこの体育が好きだったりする。
気力尽き掛けるこの最後の授業が、数学や英語だったりしたら……。
間違いなく寝る。
体育ならそんな心配ないしね。
校舎の建物と完全に分離している体育館へは、上履きのまま通れるこの外通路を抜けて行く事になるんだけど。
どういうわけか今日の通路は人で溢れている。
校舎内から体育館に行くにはこの通路しかないし、2クラス分の合同授業とは言えこんな混雑は出会ったことがない。
「何事何事?
ちょっと情報収集してくるわっ」
こういう時の夏美の情報収集能力は、ジュニアをもしのぐかも。
スルスルッと人混みをかき分けて、あっという間に見えなくなっちゃった。
ざわめきが一瞬大きくなった気がして顔を上げると、小柄なあたしにも体育館の人混みから頭1つ分飛び出したカイリの顔が目に入った。
なんだろう?
滅多に見ない仏頂面に余計に目をひく。
「あれ。烏丸先輩」
深雪のつぶやきに合わせたように、夏美が人混みをかき分けて帰ってきた。
「ただいまっ。
なんかね。授業中に2年の女子が倒れたんだって」
そんな夏美のすぐ後ろを、体育教師が人混みをかき分けながら歩いてくる。
「どけどけっ。
道開けろぉ」
その後ろに続くカイリの腕の中には、
「っ!」
リカコさんっ。
危うく声を上げそうになって、ギリギリ声を飲み込んだ。
しっかりとお姫様抱っこでかかえられたリカコさんは、夏美の報告通り意識がないみたい。
そもそも意識があったら、リカコさんがカイリにお姫様抱っこなんてされるはずがないし。
真っ直ぐに前だけを見ていたカイリは、人混みに紛れるあたしには気付かなかったみたいで、先生と、リカコさんとよく一緒にいる由美先輩と共に保健室の方へ消えて行った。
貧血かとか熱中症かとか、辺りのざわめきが耳には入ってきても、頭が理解しない。
リカコさんが倒れた。
その事実だけがガンガンとあたしの頭の中に響いてくる。
どうしようっ。なんか苦しい。
今あたしが保健室に行ったって邪魔になっちゃうかな。
廊下にあふれていた生徒達も、体育館や教室にそれぞれ散って行く。
「香絵、深雪。体育館行こ」
歩き出した夏美の隣で振り返った愛梨が、あたし達を促してきた。
深雪。
ちょっぴり悲しそうに見える深雪の横顔に、西門の前でジュニアの言った言葉を思い出す。
好きな人が、他の女の子を抱っこで運んでる場面になんて、出くわしたくはないよね。
んー。
「深雪、行こ」
リカコさんはもちろん気になるけど、カイリもついてるし。
あたしは深雪の手を引いて、体育館に歩き出した。
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