第22話びしっ!

 深雪を家まで送ったその足で、来た道を引き返す。

「お待たせっ」

 朝、深雪との待ち合わせに使う橋のたもとで待って居るのはイチとジュニア。

「今日は寮に来ても何もないんじゃない?」

 あたしと深雪を送ってくれた……と言っても少し後ろからついて来てただけだけど……その間は頑張って歩いていたジュニアは、すでにイチの自転車の荷台を占領済み。

 相変わらず絶妙なバランスでアグラをかいている。


「いいの。リカコさんも データの引き継ぎしに来るでしょ?」

 昼間の一件で、次の内偵はジュニアが出る事になったしね。

 当日の参加は無くても、動きの把握はしておきたい。

「って言うかさぁ、イチだって手の甲切ってるよね?

 怪我は完治するまでお休み。の約束なのに」

 むぅ。っと睨みつけるあたしにイチはしれっと視線をそらす。

「俺痛くないし」


 ……。

「びしっ!」

 自転車のハンドルを握る、包帯を巻いたイチの手に狙いを定めて、あたしの手を振り下ろす。

 ベチンッ。

 あたしが叩いたのはハンドルのみ。

 ベチベチベチベチッ!

 ことごとく狙う手の甲は避けられる。

「カエ。スピード落ちたんじゃない?」

 にまにまっと笑うジュニアをイチも擁護ようご

「食ってゴロゴロしてるだけだから、身体が重くなったんだろ」

「むうぅぅぅっ」

 返す言葉が出てこないぃぃ!


 昨日襲撃を受けた通りに差し掛かり、あたしとイチの間に、何となく緊張が走る。

 2日続けておんなじ場所で襲撃って事は無いと思うけど。

「ふーん。

 確かに人気はないけど、また随分ピンポイントだね」

 ジュニアが荷台から辺りを見回し、呟く。

「僕たちの居どころも特定されてるかもね」

 歩くスピードを落として、荷台のジュニアに並ぶ。

「イヤなこと言わないでよ。

 でも、3日やそこらで居場所まで割れるなんて、情報収集凄すぎじゃない?」

「僕たち、裏では何気に有名人なのかもよ」

「そろそろ10年くらい地下活動してるしな。

 顔は割れてないつもりだったけど、そうでもないみたいだし」

「おっ。有名税?」

 にぱっと嬉しそうにジュニアが笑う。

「ヤな税金んんっ!」


「キバとアギトってさぁ、餓狼の関係者的な口ぶりだったんでしょう?」

 ジュニアが何かを考えながら真剣な口調で切り出した。

「うん。餓狼兄がろうにぃって言ってた。

 もうっ、絶対的に叩きのめしてやりたいけど、出来れば近づきたくない」

「なんか矛盾してね?」

 イチが首をかしげる。


「イチだってアギトに耳をチュッってされてなかった?」

 あたしの一言にイチが明らかに顔を引きつらせた。

 ……ま。嬉しそうな顔されても困るけど。

「あの最中に見えて」

「なにそれっっ!

 昨日の報告にはそんな楽しそうな事入ってなかったけど!」

 イチの言葉を遮って、ジュニアが興味津々に割り込んでくる。

「楽しくねぇよ」

 昨日の寮でどんな報告会が行われていたのかはわからないけど。まぁ当然言い出したい事じゃないか。


「ふーん。

 じゃあさぁ、イチがキバ、カエがアギトでカード組めば良いんじゃない?」

 あ。そっか。

 さも当然と言い放つジュニアの言葉に、イチと顔を見合わせて意思を確認する。

「また2人が当たるかわからないけどね。

 僕やカイリもいるかもしれないし。

 しっかしイチってさ」

 一転、嬉しそうにジュニアが笑う。

「アギトといい、葵ちゃんといい。

 モテモテで大変だね」

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