第10話俺の名前、忘れただろ ✴︎
「どうかしたの?」
帰宅途中の裏通り。なんか挙動不審な深雪につい声を掛ける。
朝の登校時から、学校にいる間も何となく様子がおかしい気はしてたんだけど、何て言うか、辺りを気にし過ぎているっていうか……。
「あ……。うん。
香絵は、怖くない?」
「え?」
下校途中の往来で、思わず足を止めてしまう。
「また、誰かが……その、襲って来るんじゃないかって……。
最近、すごく怖くてしょうがないの」
誰かに聞かれたら大変だとでも言うように、深雪が小さく告白してくる。
しまったなぁ。
正直、盲点だった。
天井からヤクザの取り引き現場を目撃したり、夜中に窓ガラスぶち破って逃走した挙句、拳銃なんかに狙われる様な生活していると、世間と感覚がズレて来るらしい。
……。なんか、改めて振り返ると壮絶だなぁ。
「深雪。それPTSDかも。
1回……」
続きを言いかけて、刺さる視線に顔を上げる。
「こんにちは」
制服を着た男子生徒が5人、あたし達の帰宅路を塞ぐ形で立っていた。
うちの制服じゃない。
確か、この先にある工業高校。
「やっぱり。
君さ、最近ニュースでよく見る渋谷の交差点の
画像と比較しているのか、スマホの画面を見ながら話しかけて来る。
うわぁ。こんなところまで余波が。
確かに登下校時に、このメンツ(いつもは3人くらい)とは何度か行き違ったこともあったけど。
イチが、あんまり柄が良くないって言ってたなぁ。
「人違いです」
こういう時は、きっぱりこれに限ります。
「そんな訳ないだろ?
森稜高校の制服、俺たちも下校途中によく見かけてたし」
他の生徒も声を上げる。
「俺たちさ、SNSで〈いいね〉が欲しくて。
協力してくれるよね」
「渋谷スクランブル交差点の女子高生、1対5でどこまで耐えられるか。
とか、どう?」
最悪。
「人違いって言ってんでしょ?」
深雪の手をしっかりと握って、後ろに逃げるよっ。て意味で後方に軽く引く。
「それと、ネーミングセンスが悪すぎんのよっ!」
深雪が捕まらない様に、繋いだ手を後方に引き出してからスポバを相手に向かってふりまわすっ!
「走って!」
あたし1人ならホント、どうとでもできるけど、流石に深雪を放ったまま立ち回りは無理がある。
イチ達に連絡取っても、駆けつけてくれるまで待ってらんないし。
とりあえず大通りに出よう。
「か、香絵っ。
苦しっ」
急に深雪の足が止まった。
蒼白の顔が引きつっている。
「あーあ。
お友達、辛そうだね」
大した距離は走っていない。
男子生徒達もしっかり揃って付いてきているし。
腹立つぅ!
ニヤニヤ笑う顔面に蹴り足を叩き込んでやりたい衝動に駆られつつ、一呼吸してしゃがみ込む深雪に目を向ける。
よし、諦めて張り倒そう。
顔を上げると視線の隅、15メートルくらい先の十字路から背の高い見飽きた……ん? 見慣れたシルエットが、のんびりと姿を現した。
「カっ。
かかかかかっ。
大声で呼ぶあたしにのんびりと、カイリが手を振って来る。
「俺の名前、忘れただろう?」
カイリの苗字なんて呼ばないもん。
「何。
加勢?」
生徒の1人があたしの手首を掴む。
「触るんじゃないわよっ」
睨みつけて、掴まれた手首を半分ひねって下へ引く。
簡単に、相手の手から逃れる頃にはカイリがあたしの隣に並んでくれた。
「いい所に来てくれた!
流石っ。正義の味方、持ってるね。
グッジョブ、後よろしく」
とりあえずおだてて、座り込む深雪のそばに着く。
「ふむ。
バットボーイ達。
そうだな。とりあえず、うちの妹分に手を出すと大変な事になるって事は、学んでもらおうかな」
あたしと深雪、相手の男子生徒に順番に目をやって、ゆっくりと顔を上げる。
「は?
デカイからっていい気なもんだな。
5対1で勝つつもりか?」
リーダー格らしい生徒の言葉。
さっきあたしにも同じような事、強制しようとしたくせにっ!
「そのつもり」
答えて、カイリが持っていたスポバをリーダー格の男子に投げつけた。
「っ!」
彼がスポバをキャッチした瞬間。
スポバに炸裂するカイリの上段蹴りに、吹き飛ぶリーダー格の男子が、真後ろの男子を巻き込んでブロック壁に激突した。
「これで3対1」
静かにカイリが呟く。
あー。この声の感じ、キレてるな。
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