第9話自爆までは責任持たないよ

 っ!

 あたし達を知るであろう男の言葉にジュニアと顔を見合わせる。


「……誰?」

「さぁ?

 セクシーなお姉さんならまだしも、2年も前の現場で会ったおっさんAの顔なんて覚えてないよ。

 て言うか、僕イチじゃないし」

 そうでした。


「この事は帰ってから、記録を探してみよ。

 さて、そろそろいいかな。


 リカコ。シルバーボールが破裂したら合流するから、よろしくね」


『了解。

 待機済みよ』

 パンッ


「どわぁっ!」

 パンッ

 パンッ

 パンッ


 続けざまに発砲音が響き、壁伝いに衝撃と跳弾の火花を見る。

「やめろ、餓狼っ!」

 男の声が発砲を制した。

 ヒュッ!

 もちろんそんな瞬間を逃せるはずもなく、大体の見当でジュニアがシルバーボールを投げつけるっ!


 パアァァンッ!


 カッッ!


 発砲音が響き、銃弾にはじけたシルバーボールが暗闇に閃光の花を咲かせる。

 シルバーボールは閃光のみ。


「ふふぅん。

 リアルムスカ体験」

 そんなの一部のラピュタファンにしかわからないよ。

 壁を背に瞳を閉じても、なお閃光がまぶたを通して白く輝く。


 暗闇に慣れた目を焼かれた男たちのうめき声を聞きながら、ジュニアが先に壁から飛び出した。

 後ろを走るあたしを金網の前で待ち構え、タイミングを合わせて差し出す手のひらに乗せたあたしの足を、上へと運び上げてくれる。


 負傷した左腕を使わずに金網を乗り越えて、続くジュニアと共にスライドドアの開いた路肩の黒いバンに滑り込んだ。


「お疲れ様。

 カエちゃん、腕出して」

 スライドドアが閉まると同時に走り出す車内では、救急箱を用意してくれていたリカコさんがスタンバイ。

 黒いツナギのファスナーを開けて、Tシャツを着た腕を抜く。


銃創じゅうそうってほどじゃ無いわね」

 ホッとしたようなリカコさんの声に、あたしもしっかりと傷口に目をやる。

 摩擦熱による火傷。そこそこ軽度。


 んー。なんて言ったらいいのかな、体育館でスライディングした事ある人なら、ちょっとわかるかも。

 いないかそんな奴……。


「一般市民として、発砲音の通報をしておいたわ」

 救急箱を片付けながらリカコさんが業務連絡。

「今夜にも森稜署から鑑識が入るはず。

 巽さんから、情報提供してもらいましょう」


「ちょっといい?」

 リカコさんとジュニアを見ながらゆっくりと手を挙げる。

「今日、あたしが怪我した事。

 イチとカイリには内緒にしてもらえないかな……」


「僕は別に構わないけど、むしろカエが顔に出るタイプだからねー。

 自爆までは責任持たないよ」

 視線がリカコさんに移る。

「なんで内緒にしたいの?

 〈おじいさま〉に上げる報告書にも「負傷」の文字を書かないわけにはいかないわ。

 2人だって、心配しながら待っているでしょうし」


 リカコさんがイスの取り外された後部座席の一角、コードや機材の隙間に押し込まれた丸イスを引っ張り出す。


「報告書はしょうがないんだけど、2人に話したらまた、危ないから2度と現場に出るなって言われそうで。

 ……まぁ、怪我したあたしが悪いんだけど」

「どっちにしろ、完治するまではお休みよ。

 あの2人だって、しょっちゅう怪我しているじゃない。

 カエちゃん。聞かれなければ答えないけど、嘘はつけないわ。

 ごめんね」


 リカコさんのちょっと寂しそうな顔に、なんだかすごく罪悪感。

「ううん。あたしそこごめん」

 すごく余計なことを口走りそうなジュニアの口をデイパックで抑えつけて、あたしも素直に頭を下げた。

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