第4話可愛い可愛い

 無理……。

 延々と続いた巽さんのお小言も終わり、イチのスマホを持ったままガックリとテーブルに倒れ込む。


「はい、お疲れさん」

 するりと手からスマホが抜けていき、ぽふぽふと頭を叩かれた。

「明日からは学校でも注目の的だねー」

 ジュニアの楽しくてしょうがないって声だけで、にまにま顔が想像できる。

 ぐみゅうぅぅ。言い返す気力もない。


「しばらくは大人しく過ごすのね。

 さてと、想定外だったけどせっかくみんなが集まったし、明後日の内偵の話を少ししておこうかしら」

 リカコさんの一言に、一気に部屋の空気が引き締まる。


「今回は銀龍会の麻薬取引現場の確認と、証拠映像の確保。

 メンバーは、ジュニア、カエちゃん、私。

 真影さんに車を出してもらうわ」

 iPadをローテーブルの上に置き、先程照らし合わせた情報を画面に表示させる。

「銀龍会だって。

 なんでこう言う連中は銀とか金とか、龍とか好きなの?

 先週の水曜日の内偵は黒龍会だったよね。

 ネーミングセンス疑う」

 その回はイチとジュニアとリカコさんが出てたはず。


「じゃあジュニアが新しい名前をつけてあげなさい。

 組織犯罪対策5課がしっかり検挙したみたいだから、再出発の為に名前を変えるチャンスかもね」

 リカコさんが軽くあしらう。

「何にしよう。

 明るい名前がいいなぁ」

「付けるつもりかいっ!」

 突っ込まざるを得ないって。


「ほら、すぐ終わるからちゃんと話を聞きなさい」

 緩みまくっちゃった空気にリカコさんがクギを刺し、iPadの地図を指す。

 なんだか幼稚園の先生みたい。

「現場は5丁目の倉庫街、最近立て続けに組対そたい5課が薬物関係で検挙しているのを警戒してか倉庫の規模は小さめ。

 明日の放課後現場を確認に行きたいからジュニアとカエちゃんは時間を取ってちょうだい」

『了解』


 あたしとジュニアの返事に、イチが声を上げた。

「1回目は俺とカイリ、2回目は俺とジュニアだったろ?

 今回はカイリの番じゃ無いの?」

「その予定だったんだけどね」

 リカコさんが再びiPadのページをめくる。

「倉庫の感じからして、身を隠す場所が無さそうなの。

 明日の現場確認の状態にもよるけど、身軽で小回りの効く方がいいわ」

 リカコさんが長い髪を耳にかけ、あたしとジュニアを見ながら話す。


「んー。カイリって無駄に大きいもんね」

 身長180超え、イチ曰く脳みそまで筋肉で出来ている。

 その分スピードは遅め。

 イチとジュニアは平均的な体格かな。

 イチは格闘もスピードも一番バランスいいかも。

 ジュニアはスピード重視。蹴り足とか見えない事あるし。

 そうだ、手合わせしてもらおうと思ってたのに、まだ話せて無いや。

 リカコさんは情報管理と指揮が主で、あんまり外での活動はしない。

 あたしは……まあいいや。


「カエは無駄に小さいよね」

 うぐぅっ。

 見透かしたようににこにこ笑うジュニアを睨みつける。

 身長的には、同い年の女の子達よりやや、やや低め。

 打撃も軽いけど、スピードならジュニアの次くらいかな。

「可愛い可愛い」

「むぅっ。バカにしてるっ!」

 ローテーブルの向かいからあたしの頭をぽふぽふとしようとする手を真剣白刃取りっ!


「ほら、レディ達の帰りが遅くなるから、今日は解散だ」

 あああっ。明日学校行きたくないなぁ。

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