第5話威力はカイリでテスト済み

 今日は朝から職員室に呼ばれ事情聴取。

 何となく……いや、ガッツリ好奇の目にさらされた1日だった。

 ホント、深雪達がいてくれなかったら辛過ぎたよぉ。


「カエっ」

 倉庫街に近いコンビニの駐車場。

 イチの自転車の荷台に後ろ向きにあぐらをかいたまま、ジュニアが大きく手を振ってくれる。

「おつ。イチも来たんだ。

 リカコさんはまだみたいだね」

 イチはサドルに座ったまま両足で自転車を支えてる。

 なんか微妙に傾いてるのに、ジュニアは相変わらず落ちる気配がない。お尻がくっついてるんじゃないのかな?


 そんな中をコンビニの前に1台のタクシーが止まって、中から黒いスーツを着た女性が1人降りて来た。

 長い髪を揺らし、黒ぶちの眼鏡……って。

「リカコさぁん」


 薄っすらお化粧をした唇がにっこりと微笑む。

「お待たせ」

「あれ。なんか老けたね」

 ジュニアアァァァ。また変なことをっ。

 青筋が浮かぶリカコさんをついフォロー。

「どおおぅうしたのっ? スーツ。

 リカコさん何着ても似合うね」

 イチは完全だんまりを決め込むらしい。

 ズルいいいっ。


「内覧したいってお願いして倉庫の鍵を不動産屋から借りてきたの。

 学生が貸して欲しいなんて言っても相手にされないからね」

 多少の引きつりを残しつつ、あたしに答えてくれる。

 リカコさんはジュニアを相手にしないと決めたらしい……。

「さぁ、倉庫に行きましょう」



 ###


「なんか、だいぶ手狭だね」

 大きさで言えばちょっと大きい体育館って感じ。

 荷物なんかの類はなく、確かに隠れるには都合が悪い。

「ジュニア、頼んでおいた物持ってきてくれた?」

 リカコさんの声かけに、背負っていたデイパックを降ろす。

「もちろん。

 威力はカイリでテスト済み」


 出てきたのは全長30センチ弱のちょっと大きめの銃。

「セットは普通の銃と変わらないよ」

 手渡されたリカコさんは利き手である左手にその銃を構えると壁面を狙う。


 ドウウゥゥゥンッッ!

 腹部に響く低音。

 天井と平行に走っている照明を吊るす梁の少し上を撃ち抜いたっ!


「鉄線が出てる?」

 銃身から伸びる鋼鉄線は見事に壁にくいこんでいる。

「カイリでテスト済みってことは、カイリの体重は支えられたってこと?」

 問いかけるリカコさんから一旦銃を受け取り、作業をする。


「うん。何も言わずにマンションの外壁を登ってもらった」

「それ、本気の実験台じゃない……」

 思わず本音が漏れる。

 知らぬが花ですな。カイリ可哀想。

「上にあがって足場の確認だって。

 カエ、お先にどうぞ」


 ジュニアに促されて銃を受け取っ……。

「てえっ!

 あたしはスカートだから!」

「ちぇー」

 ジュニアがあからさまに不満顔。

「ふふふーん。

 でもリカコさんに言われて、ちゃんとジャージ持参だもんね」

 床に置いたスポバから、インカムと学校指定のジャージを出すと、スカートの中に履く。

 んー。変。


 インカムを耳にセットして、ジュニアからもう一度銃を受け取ると、レクチャーを受ける。

「ここのスイッチで中のウインチが巻かれていくから、登り切ったらスイッチは切って」

 壁に足を掛け、ウインチを巻く。


「おおっ。便利」

 あっという間に梁へ到達した。

『そのまま銃は投げていいよ。

 さっきの位置で止まるから』

 インカムからのジュニアの声に、銃を落とす。

 続いて登って来るジュニアを待っていると、イチとリカコさんの会話がインカムに入ってきた。


『誰か来たわ。

 今日の内覧は私達だけのはず』

『ガラの悪い感じだな』

 イチに言われるようじゃ、相当なガラ悪だろうな。

『ジュニア、上まで上がって待機。

 イチと外を見て来るわ』

 壁面のジュニアと顔を見合わせる。

「了解」

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