第3話最悪ぅ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!
「最悪ぅ」
マンションの一室、カイリ、イチ、ジュニアが共同生活しているこの寮は、あたし、リカコさんも含めて5人の活動拠点にもなっている。
そんな一室のソファ横のローテーブルに突っ伏して、あたしは後悔の沼にだだ沈み中……。
「で、友達の前で包丁持った通り魔をぶん投げちゃったんだ。
やっぱり2号は引きが強いね」
ローテーブルのお向かいで、頬杖をつくジュニアがあたしの報告を振り返ってくれる。
て言うか、2号って何よ?
「ニュースに映像が流れたのもそうだけど、何よりSNSやYouTubeでの拡散が
私のところにも、『仲良くしている後輩じゃない?』って、何件も入ってきたし」
ソファに座るリカコさんがスマホを振る。
「でも、現場の怪我人が2人で済んだのはカエが早期に犯人を抑えたからだろ?
1人は背中、1人は脇腹。
2人とも大事には至らなかったみたいだしな」
あたしが1回目に異変を感じた時、声も出せずに若い女性が刺されていた。
でも、イチのフォローも今は悲しいよぉー。
「元気出せ、カエ。
トゥモロー・ハッピーだっ!」
あああっ。キラリと歯を輝かせるカイリがううざぁいいぃぃ……。
渋谷からの帰りの電車はもう、質問攻め。
そりゃそうです。今まで格闘技が出来るなんて言ってなかったし。
「わー。渋谷署が、カエに警視総監賞の受賞を検討してるってさ。
カエが警視総監の孫娘だって知ったらびっくりするだろうね」
テレビの情報に、ジュニアが笑いを堪えてる。
「まぁ、無いな〈
イチも面白そうに笑った。
そう。〈おじいさま〉こと、櫻井警視総監はあたし間宮香絵の母方の祖父。
ただし、あたしは間宮家の養女で、リカコさんは科捜研の所長の養女になっている。
ここで寮生活の男子3人と合わせて、幼少期から訓練を受けた、〈おじいさま〉直属の
まあ主に内偵調査で、表に出る事も逮捕権も無いんだけどね。
何度目かのスマホの着信音には反応する気も無くなってくる。
「はい」
電話に出たイチをちらりと見ると、イチもあたしを見ていた。
「うん。今寮。いるよ、ちょっと待って。
カエ、スマホの電源落としてんのか?
「ひえええぇぇっ」
その名前に頭を抱えちゃう。
巽さんはあたしの〈父〉、つまりは〈母〉せりかさんの旦那さま。
スマホをあたしに渡すイチの顔が、ご愁傷様。と語っている。
あたしは大きく深呼吸をすると、覚悟を決めた。
「カエでぇす」
「香絵っ! 怪我はなかったか?」
思いの外怒ってない……っていうか思いっきり心配されてるし。
「あ、うん。
夏美がちょっと肘を擦りむいたくらいで、後は何ともないよ。」
「そうか……。せりかさんも心配してたから連絡入れておけ、今日は早く帰れよ」
「うん」
そして聞こえる小さな咳払い。
「まぁ、それはそれとして。
なんでお前は、毎度っ毎度っ面倒な事に巻き込まれるんだっ!
渋谷のど真ん中!
テレビのニュースでどれだけ肝を冷やしたと思ってるっ!」
めちゃめちゃ怒ってるぅぅぅ。
「ごめんなさい」
さらに続く巽さんのお小言には、もうひたすら謝るしか無いのです。
あたしだって好きで巻き込まれてるわけじゃないんだよぉっ!
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