Ex. 私の過去のお話
さて、ここらで少し、過去のお話をさせてもらおうと思います!イエーイ!
どうも、紅島優香です!みなさん、もうお分かりだと思いますが、私は神ノ島先輩のことが好きなんです。ですが、それは少し前からのことなんです。それについてお話しようかと。
あれはまだ、私が中学1年生だったころ。当時は髪は黒色で、今よりも長い感じでした。眼鏡もかけていました。そして性格に関しても、今よりもう少し穏やかな感じでした。
陸上部に入ろうと決めたのはただ単に、走ることが好きだったからでした。部活では、きつい体力トレーニングもたくさんこなしました。死ぬほどきつかったですね、あれは。軽く100回くらい死ねたと思います。
そうして私は毎日へとへとになりながら練習に励んでいたのですが、そんなきついトレーニングの後にひとり、居残りで練習に励んでいる人がいました。彼は目標のタイムを出すために、ただひたすらに走り続けていました。もちろん、神ノ島先輩のことです。最初は、そんな彼のことを「よく頑張る人だなぁ」としか思っていませんでした。けれど、彼は雨が降ってグラウンドが使えないときでさえも、室内で筋トレなどをこなした後にいつものように居残り練習をしていたのです。正直言って、この人の情熱は並大抵ではない、そう思いました。
当時の私は、なかなか学校になじめず、友達も多い方ではありませんでした。毎日緊張と不安を抱えながら生活していたのです。けれど、そんな私に力をくれたのが先輩でした。私はいつしか先輩が居残り練習を終えるまで見守るようになっていました。先輩が体力を使い果たしてグラウンドに倒れてしまったときは、かなり肝を冷やしましたね。だってあの人、死んだようにいきなり倒れるんですもん。びっくりしますよ。
当時の先輩はまだまだ成長途中だったようです。部内でも、先輩より足の速い人は何人かいました。運動能力というものはある程度才能の部分も存在します。だから先輩は努力でそれを埋めようと必死に頑張っていました。先輩は覚えていないかもしれませんが、一度聞いたことがあります。「どうしてそこまで頑張るのか」と。
すると先輩はニヤッと笑いながらこう答えました。
「他校にライバルがいるんだよ。って言っても、俺が勝手にライバル視してるだけかもしれないが。そいつはうちの学校の誰よりも速い。だから、誰もそいつに勝とうなんて思っていない。けどな、俺は勝ってみたいんだよ。そいつに」
なんて向上心の持ち主だろう。私は心底先輩に関心させられてしまいました。頑張る理由を聞いて少しすると、私も居残りで遅くまで練習するようになりました。正直、私からは先輩に話しかけることはあまりありませんでした。自分で言うのもなんですが、結構内気だったんです。けれど、先輩は私が力尽きてグラウンドに仰向けで倒れ込むと「お疲れ」ってタオルをくれました。当時の先輩はとても輝いて見えました。今では目の下にクマを浮かべたダークサイドな人間になってしまっていますが。(いや、それはそれでかっこいいな、なんて思ってます)
私はそんな先輩にドキドキしながら「ありがとう・・・ございます」と小さな声で感謝をしていました。
私も必死に練習していたからか、1年生が終わるころには大分タイムが伸びていました。そして先輩は3年生になるころには、例の他校のライバルに近いタイムを出すようになっており、部内では一番でした。
私も先輩もいい感じで成長を重ねていたのですが、私に関してはあるときからタイムがほとんど伸びなくなっていました。「どうして」「何で」という言葉が何度も何度も頭の中をめぐっていました。そんなときに優しく声をかけて励ましてくれたのも先輩でした。
「大丈夫だ。俺もそんな時期があったから。死ぬほどきつかったけど、必死に練習してたらだんだんさらに上がっていったから。心配するな。お前は俺と同じくらい練習してた、汗も流した。きっとその分だけお前は強くなってる。だからお前もいつか頂点を目指せる!」
その言葉にどれだけ救われたか。言われたその時は涙さえこぼしたくらいでした。
少し前から先輩への恋愛感情のようなものは抱き始めていましたが、このときからは本格的に意識するようになりました。
そうして、先輩が3年生、私が2年生になってしばらくたった頃。私は先輩に思い切ってあることを聞いてみました。
「先輩。先輩は・・・その、どんな子が、タイプですか・・・」
顔を真っ赤にしながら聞いた記憶があります。ああ、恥ずかしかったなぁ。
すると先輩はちょっと困惑しながらもこう答えました。
「俺は・・・髪はショートで、明るくて、一緒にいて退屈しない子・・・かな」
そう。もうお分かりかと思いますが、今の私は先輩のこの言葉がもとになっているんです。多分、先輩は記憶から抹消していると思います。おのれ・・・
けれど、他のことが頭から消え去ってしまうくらい先輩にとっては悲劇的な出来事があったんです。
あれは先輩たち3年生にとっては最後の大会のこと。もしそこで結果を出せば県大会に進めましたが、そうでなければ引退。私にとっても、どのくらい成長したかを確かめるための大事な大会でした。
私よりも先輩たちの方が出番が先でした。先輩たちは気合いが入っていましたが、少し緊張した面持ちでもありました。私は神ノ島先輩に「頑張ってください」って声をかけましたが、先輩はこっちをチラッと見て頷いただけでした。
先輩たちがアナウンスに従って招集所に向かった後、私は応援席でトラックの方をじっと見て試合を観戦しながら先輩たちが出てくるのを待っていました。
ですが、神ノ島先輩が出る男子100メートルに先輩が出てくることはありませんでした。
「何で!」と思って急いで招集所まで行こうとしたところ、途中で部長に支えられながら会場を出ていく先輩の姿がありました。遠くからでしたが、先輩はうつむいて涙を流しているように見えました。部長のもとに駆け寄って、事情を聞いたところ、部長は立ち止まって話してくれました。
「こいつはな・・・招集所に行く途中、階段で他の選手に肩をぶつけられたんだよ。そんときにな・・・足を、踏み外しちまったんだ。多分、骨折はしてねぇと思うけど・・・」
話してくれた部長も奥歯を噛み締めて悔しそうな表情をしていました。当然というべきか、神ノ島先輩がどれほど頑張っていたか、部長も知っていたということです。
私も一緒についていこうと思いましたが、部長が「何言ってる。お前は自分の試合があるだろ。それに、こいつも・・・そんなことは望んでないと、思うぞ」と言うので、何も言い返せませんでした。先輩の方を見ましたが、彼は何も言わずただうつむいて部長にもたれかかるようにしていました。
先輩は今までの努力が、ライバルに勝つという目標を達成する最後のチャンスが、一瞬のことで失われてしまったんです。
神様はなんてひどいことするんだろう。
そう思いました。
だから、先輩と部長が去った後も私はその場で泣いていました。
結局、その大会では私はろくな結果が出ませんでした。
そして、先輩たちは引退していきました。
****
3年生たちが引退した後、神ノ島先輩とは学校で何回か姿を見かけましたが、目には光がなく、とても近づけませんでした。だから、「好き」という感情も彼に伝えることはできませんでした。
けれど私は一層練習に励みました。先輩の代わりに私が頂点を目指す。そう意気込みながら、暑い夏の日も、寒い冬の日も、必死に走り続けました。先輩を忘れようとしていたから、というのもあったかもしれません。
私は秘密を他人に打ち明ける方ではなかったので、先輩のことが好きだということは誰も知りませんでした。後輩や仲間の私に対するイメージは、ひたすら練習に打ち込む姿しかなかったかもしれません。
練習のかいもあって、私は最後の大会で県大会を突破することができました。まぁ、そのあとは割とすぐに落ちちゃったんだけどね!
県大会突破を決めたとき、やはり先輩のことが頭に浮かびました。忘れようとしても忘れられなかったんです。だからその時決めたんです。
-先輩と同じ高校に行こう。
先輩が中学3年生の時担任だった先生に、神ノ島大貴はどこの高校に行ったのかは聞きました。意外と(失礼かもしれませんが)レベルの高い、けれど部活で有名なわけではない高校でした。まぁ、かくいう私もそこそこ勉強はできた方なのですが。
そして私が部活を引退した後、思いきって髪を切って、眼鏡をやめてコンタクトにしました。髪を染めるのは中学ではダメでしたので、高校からですが。(高校でもいいわけではないですが、先生たちは黙認してます。進学校だからかも)
先輩が私のことを忘れていても、先輩の目から光が失われていても。
私は、先輩にもう一度会いたい。
その一心で勉強に打ち込みました。先輩の家は知らなかったので会いに行くことはできなかったのです。
そうして時は流れて3月。私は見事、先輩がいる高校に合格しました。
ーやった!先輩にもう一度会える!
嬉しかったです。
入学までの何週間かは塞ぎ込みがちだった性格を直すため、様々なことをしました。コミュニケーションについての本を読んだり、数少ない中学の友達でコミュ力が高めの子にどうやったら人とうまく話せるか、初対面の人と距離をつめる方法は何か、などについて聞きました。そんなトレーニングをして2週間ほどたつと、お母さんから「あなた、最近ちょっと明るくなった?」とまで言われるようになりました。
先輩に会うための準備を万端に整えていざ入学してみると、なんとびっくり。どうやら先輩には好きな人がいるようでした。廊下からこっそり先輩のいる教室をのぞいてみると、先輩は毎日のようにある人のことを見ていました。
先輩、好きな人・・・いるんだ。
少し胸が痛みましたが、それを振り払って何日か観察してみると(我ながらストーカーですよね。えへっ!)、先輩はついに告白することに決めたようでした。先輩がある人の靴箱に手紙を入れていたのを目撃したのです。そして私はそれをこっそり読んじゃったというわけなんですねー!
まぁ、少し、いや。大分気になったので、告白の様子を観察させてもらうことにしたのです。決行の当日、私は屋上にある倉庫のなかに隠れていました。見つからないかドキドキしてましたが、先輩は緊張していたからか、私がいたことなど全く気づかなかったみたいです。
先輩がフラれた瞬間を見たとき、やはり安心と嬉しさが込み上げてきていました。先輩には少し申し訳ないですが。
やった!よし、今こそチャンス!フラれて落ち込んでるところに優しくしてあげれば先輩を落とせるかも。
そう思って、先輩と告白の相手の人(かなり美人でしたね。化粧とかなくても美人な人ですね、あれは)がいなくなった後に、先輩を探しに行き、そして優しく慰めて、膝枕までしてあげたというわけです。実際やってみるとかなりドキドキしました。先輩が寝てる間とかマジやばかった・・・
けれどあの後、少し予想外のことがありました。
それは。
何で私のこと全く知らない人だと思ってるのぉー!!
何で陸上やってないのぉー!!
まぁ、ただ、どちらもあり得ることではありましたが。私に関してはイメチェンしましたし、陸上に関しては・・・かなり辛かったからだと思います。昔のことを思い出したくないんだと思います。
イメチェンしたっていっても、先輩、全く気づいてくれなかったなぁ。ひどい。
いいですよーだ!絶対、思い出させてやりますから!
以上、私の過去のお話でした!はぁ、どうやって思い出させようかな。陸上関連はトラウマっぽいし。
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