第10話
白馬に乗ったお姫様が
お婿さん探しの旅をしています。
村の街道沿いに
パラソルと椅子を出している女性が声を掛けてきました。
「こんにちわ~」
「こんにちわ~(ニッコリ)」
こんにちはと言われたらごきげんようとは返さない
ロイヤルマナーなお姫様です。
「お悩みがありますね。
解決したくはありませんか?」
え、婚活のことかしら?!
なぜそれを?
この女性は占い師なのかしら?
お姫様は一瞬驚き
悩みの無い人間などいないことに気付いて
驚きを収めました。
解決したくない人間もいないので
あらかじめ「イエス」しか返答できない声掛けです。
「ええ。解決したいものですわ」
「ちょーうどよかったー!グッドタイミングですよ。
今ここでお会い出来たのは奇跡です。
天のお導きです。高次元からのメッセージです。
奇跡に、感謝✨」
女性は両手で胸をおさえて目を閉じて仰のきました。
手入れされた手指にグッチの指輪が輝いています。
饒舌な唇を彩る口紅は
華やか且つ高級感溢れる上品なパーリーピンクです。
出会いの奇跡に胸いっぱいといった潤んだ瞳で
女性は感慨深く溜息をつきました。
手入れの行き届いたセミロングヘアといい
もしやこの地方の貴族の姫かしらと
お姫様は考えましたが
にしては
随分と穿き古した靴を履いています。
「お姫様は非常にラッキーですよ。
私と一緒にキラキラ寺院に参拝するパワースポットツアーの残席が
丁度あと一人なのです。
とっくに満席になっていた超人気ツアーなのですが
ついさっき!
一席だけ空きが出たのですよ。
これは絶対に天のお導き、宇宙からのメッセージです!
おめでとうございます!
あなたの為に空きが出たのです。
もうすでに引き寄せは始まっているのです!!」
ああ凄い、と言いながら女性はお姫様の手を両手で包みました。
「御覧なさい、
この運命の出会いを祝福して大空に神龍が出現しました!」
嗚呼なんという吉兆、御覧なさい御覧なさいと言いながら
女性は飛行機雲を指さしました。
「つきましてはこちらが申込書です。
さあさあ、どうぞお掛けになって」
パラソルの下のプラスティック椅子をすすめられました。
バインダーに挟んだ申込書と金色のボールペンが差し出されます。
お姫様はいつの間にか
ペンを持って申込書に対面です。
そして
書面に書かれた内容に
今度こそびっくりしました。
「参加費が5万ワンダー?!」
「ええ、そうです」
対面の椅子で
女性は背筋を伸ばし、モデル座りをしてにこやかです。
「キラキラ寺院を参拝するのですよね?」
「ええ。
私と一緒に
今年の最吉方位であり
幸運を授ける太古よりのスーパーパワースポットである
神秘の力で満ちたキラキラ寺院を
聖なる大波動に導かれ
高次元宇宙エネルギーのゲートが200年ぶりに開く再来週に
参拝し、
魂のハピネスジャンプを受け取ります。」
「キラキラ寺院は、参拝無料お寺の筈ですが」
女性は謎に無表情の「キョトン」を見せてから
エレガントに笑いました。
「よーく読んでくださいませ。
超有名店ランチ会食付のデラックスツアーなのですよ」
言われてみると
確かに
[参拝後は、
うるふぎゃんぐ大飯店にて
しーさんを囲んでの飲茶ランチ会]
と記してあります。
「しーさんとは?」
「あらあ♪申し遅れました。
私が
『大宇宙高次エネルギーとあなたを繋いでハピネスを届ける交換手、しーさん』です♪」
答えを聞いてますます意味不明。
もはや
飲茶では、ランチ会ではなくお茶会では?
と
つっこむ気力も起こりません。
不思議な既視感。
こういう感じ、どこかで・・・・
・・有名店・・・飲茶・・中華・・・グッチ・・
「あっ!」
お姫様は立ち上がりました。
「三話だわ!」
一瞬、「ちっ」という舌打ちが聴こえたような。
いやそれよりも
「その、交換手しーさんさん。
あなたはもしや
あのかたのご関係者様でしょうか?
黒馬に乗られて
両手に腕時計をなさった
確かグッチのジーンズをお召の殿方ですが」
自信たっぷりににこやかだったしーさんの顔色が
紙のように真っ白になりました。
それでなくてもマツエクで大きな目を張り裂けそうに見開いて
「あなあなあな、あなた、
あのあのあのかたの、お知り合い、の、おかた様様、だったの、ですかッ?!」
何なのでしょうか?
この、強引からの急変化は。
「お知り合いと言えますかは分かりませんが
お食事に誘って頂きました」
ひいいいいッ、と、
しーさんは動揺恐慌してプラスティック椅子に躓いて蹴倒しました。
「まあ、大丈夫ですか?!しーさんさん」
「いえいえいえ、すいません!すいません!
たたっ、大変!しっしっしっしつれいをば致しました。
天上人様にとんだご無礼を、
お許しください!お許しください!」
自信たっぷりの上から美人が
今は
穴を掘って潜りそうな勢いです。
「どうかどうか今日のことはご内密に!
お願いします!
私はただ、ただ
ノルマの為に必死だったのですー」
しーさんは泣いています。
もはや
一度食事に誘われただけで行きずりに近いと言っても
聞く耳を持っていそうもありません。
「まあ、ノルマが。
お気の毒に。やはり参加いたしましょうか?」
やめてー、と言いながらしーさんはボールペンをひったくりました。
パラソルを速攻で畳み、椅子とバインダーと一緒くたに抱え
「もう、ここで勧誘はしません。ごめんなさいでしたー!!!」
と言い残して走り去ってゆきました。
フンフン・・・
白馬がお姫様に鼻息の合図を送ります。
「あら、お腹が空いたのね。
どこかで馬草を頂きましょうね」
あの三話の黒馬の商人さん、
確かに「無いもの」を売っていたようです。
でも
無い物じゃ
馬のお腹も膨れませんね。
飛行機雲は
風に消えてゆこうとしていました。
お姫様の旅は続きます。
wonderland 御法川マドンナ @madonna
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